未登記道路

 ここ1、2年ばかし、道路管理部門からいわゆる「未登記道路」についての相談事の件数が、増えた気がする。
 未登記道路というのは、市道認定かけたれっきとした道路なのだが、底地の登記簿上の所有者が私人になっている、という類のもの。道路管理者側の主張としては、正当な権原を取得していなければそもそも供用開始できない「はず」だから、単に登記事務が漏れただけだろう、ということで、こういう言い方をする。
 だから登記簿上の所有者からすれば、俺の土地の上に何だか知らんが道路が通ってて、そのこと市に文句言いに言ったら逆に登記が漏れてるだけだから分筆登記に協力しろと言われる。一言の詫びもなく何だその態度は、ということになる。そりゃそうだよな。俺だって所有者の立場だったら怒ると思う。
 だけど、ここで失念されているのは、土地の所有権だとか、道路の権原だとかっていうのが、ちゃんと考え方として確立されたのは、ごくごく最近だ、っていうこと。
 そもそもこの国で「土地の私的所有」という考え方が始まったのは、明治初頭の地租改正の頃であって、それ以前はどこが誰の土地、なんて意識はそんなに明確じゃなかった。まして、農山村を互いに結び、あるいは田畑と家々の間を行き来する、いわゆる「里道」の類については、おらが村の道は村のみんなのものだ、って感覚は、わりと最近まで残っていたはずなのだ。


 ちょっと整理。

  • 明治6年:地租改正。土地の私的所有権の確立。
  • 明治9年:太政官布告(っていう形式の、法律だ)により、「里道」という概念が初登場。その権原等の考え方はまだ明確でない。
  • 大正8年:旧道路法。初めて、道路は「国の営造物」との整理がされ、権原が国に帰属することが明らかになる。旧道路法以前の里道は大半が「町村道」として認定されたが、一部は認定されずに残り、いわゆる「赤道」=法定外公共物として後々に問題を残す。
  • 昭和27年:現行道路法。旧道路法の町村道は、新道路法のみなし市町村道となる。


 新道路法以降にちゃんと用地買収かけて市が自ら建設工事やって供用開始してれば権利関係ははっきりするわけだが、残念ながら、認定市道として現に供用されているものの相当数が、新道路法より前から現に道路として地元に利用されているものを、事後的に市道認定してるだけだから、書類上のデータと現地の実態が一致しなかったりするのは、珍しくない。
 これに加えて、いわゆる道普請とか失対事業とかで道路の線形変わってたりすることがあるから、油断ならない。そのへんの事情となってくると、最後は地元のご年配の方にお話うかがうより他にないのだが。
 一般論として以上のファクターを頭に入れた上で、最後に頼りになるのは、国土地理院の航空写真だったりするのも、冗談のような本当の話。