これからの水源保護の話をしよう

問:
 水道水源として利用されている河川がある。この河川は、上流域の開発が進むにつれて水質汚濁が進み、下流域での飲用水としての利用に支障をきたしていた。
 そこで、上流域の指定区域内の土地所有者に対し、土地利用を規制する条例が作られた。指定区域内での埋め立て、伐採、砂利採取などの行為を自由に行ってはいけないとするものだ。
 しかし、指定区域に土地を持つ者たちは、この条例に反対した。彼らの言い分はこうだ。――土地利用の規制がされるのなら、それは、すべての土地に対してされるべきだ。同じように税金を払い、同じように社会に対する義務を果たしているわれわれが、ただ水道水源地に住んでいるというそれだけの理由で、他の人々より多大な義務を負わなければならないとするのは、不公平だ、と。
 そこで君たちに聞きたい。このような条例は、正しいものだろうか?ある特定の地域の住民だけに規制をかけるような法制度は、認められるだろうか?もしそのような規制が許されるとするならば、それは、どのような理由によってだろうか?


ベンサム功利主義からの答え】
 その規制により失われる指定区域内の土地所有者たちの便益の総和と、その規制をしなかったことにより失われる当該河川の水を飲用する人々の便益の総和とを比較する。前者が大きいのであれば、このような規制は正しくないし、後者が大きいのであれば、このような規制は正しいといえる。


ノージックリバタリアニズムからの答え】
 いかなる場合も、行政権力が一方的に私人の土地利用を規制すべきではない。このような条例は誤りである。水源地の土地所有者と、下流域の飲用水利用者との間で、双方の自律的な意思に基づき、土地の利用を制限する形の契約が行われるのであれば、それは有効である。


ロールズ的格差原理からの答え】
 原則としてこのような規制は認められないが、この規制が、最も弱い者の利益を最大化するものであるというのなら、規制は正しいといえる。下流域の住民がとても貧しく、どこかから水を買ってくることはできず、川の水を飲む以外にないのであれば、規制は正当化される。


【サンデル的コミュニタリアニズムからの答え】
 彼らの帰属する社会集団が、このような規制を望み、正しいものであると認める、そのような価値観を共有しているものであるならば、このような規制は、この社会集団においては、正しいものとなる。


元ネタ