改善命令の発出要件

 水質汚濁防止法第13条第1項の改善命令というやつがあります。

 (改善命令等)
十三条  都道府県知事は、排出水を排出する者が、その汚染状態が当該特定事業場の排水口において排水基準に適合しない排出水を排出するおそれがあると認めるときは、その者に対し、期限を定めて特定施設の構造若しくは使用の方法若しくは汚水等の処理の方法の改善を命じ、又は特定施設の使用若しくは排出水の排出の一時停止を命ずることができる。
2〜4 略

 旧水質二法(水質保全法、工場排水規制法)においては、排水基準違反に対して改善命令が発出され、改善命令に従わない者には罰則で応ずるという、いわゆる「ワンクッション型」の制度設計がされていました。
 ところが、水質汚濁防止法の制定に伴い、排水基準違反に対して直接罰則が適用されることとなったため、改善命令は排水基準違反に対して発出されるのではなく、排水基準違反のおそれがある場合に(引き続く排水基準違反を防止するために)発出されるものとなりました。
 このことが、改善命令の発出に係る要件判断を、非常に難しいものとしています。


 環境関係の他の法令では、いわゆるワンクッション型の措置命令の規定を置くものが数多くあります。
 この場合、措置命令にはペナルティ的な意味合いもあり、措置命令を発出するかどうかの判断基準として、過去の違反歴や違反の態様の悪質性などが判断の要件となりえます。(例えば、1回目の違反は行政指導で済ますが、同じ違反を2度繰り返したら改善命令で応じる、という風に)


 他方、水濁法13条1項の改善命令の場合、現に違反をしているかどうかはそもそも命令の判断要件にならないので、過去の違反歴や違反の態様の悪質性は、改善命令の発出の是非の判断の要素として入ってきません。
 もちろん、繰り返し排水基準の超過が見られるような事業場には、施設の構造か使用の方法かあるいはその両方に問題があるから超過を繰り返すのであって、その意味で改善命令の対象となりえます。しかしこの場合でも、判断としてはあくまで「超過を繰り返す原因となっている問題点」について改善命令が必要かどうかを検討するのであって、「超過を繰り返している」という事実が改善命令の判断の決定的な根拠となるわけではありません。
 したがって、例えば自動車の運転にかかる違反点数のような機械的な判断をすることはできず、その都度、特定事業場のどこに問題点があるのかを見定めて、的確に(ためらわず、やりすぎず)判断を下さなければならない。これが、水濁法の改善命令の難しさだと思います。