自主測定頻度

 今年の4月1日から施行された改正水質汚濁防止法では、排出水等の自主測定・記録義務の違反について、罰則が創設されました。
 これに伴い、自主測定の項目及び頻度が法及びそれに基づく省令で明確にされ、法5条の届出の際に届け出た項目について、1年に1回以上の頻度で測定すべきものとされました(水質汚濁防止法施行令第9条)。
 届出の際にどの項目を届け出るかについての制度上の担保がされない中で、届け出た項目について測定義務を課すというのは、罰則の構成要件として、明確性の原則に照らしてドウヨ?という疑問もありますが、今日はそっちじゃなくて、測定頻度の話。


 測定頻度は1年に1回以上とされていますが、都道府県又は水濁法政令市が、条例でこれと異なる測定頻度を定めた場合には、上乗せ可能とされています。自治体の裁量を拡大しているように見えますが、これはどっちかっていうと自治体への丸投げ。
 今回の法改正の背景には、数年前に全国の事業場で発覚した測定記録の改ざん事件などがあるのですが、全体の流れとして、水濁法の要求するところが単に「排水基準に違反しない」だけでなく、「排水基準に違反しないように取り組んでいる」というところまでにらみ始めてきている、という進歩を見ることができるでしょう。
 法だけを取り上げてみれば進歩ですが、環境行政全体を見たときに必ずしも進歩といえるかどうかはちと微妙。
 これまで、水濁法の自主測定義務というのは(総量規制制度の汚濁負荷量測定記録義務を除いては)訓示的な規定に過ぎませんでした。その間、自治体環境行政の現場において、特定事業場による自主測定の実施を促進していたのは、協定であり、行政指導であったわけです。
 特に協定について着目すると、都道府県や市町村と事業者で締結する「環境保全協定」の中には、排出水の自主測定について定めるものも少なくありません。その場合、協定は行政庁と事業者の合意によって締結されるものですから、測定項目、測定頻度等については、話し合いの結果を踏まえて、各事業者の事情に合わせてかなり細かく設定することができます。
 ところが、この測定頻度について「法による規制」としてしまうと、行政庁が一方的に測定頻度を定め、事業者の意見はせいぜいパブコメでしか反映されないものとなります。事業者ごとに、使用施設、使用物質、使用頻度等がそれぞれ異なるところ、法による規制、罰則の構成要件となることを踏まえ、法令(条例規則を含む)に明記されることとなる規制ということになれば、どうしても、規制の内容は画一的な部分を残さざるをえません。
 水質二法から水濁法へと移行した昭和40年代当時であれば、重金属などの有害物質を中心とする、排水基準に適合しない排出水を排出させないことこそが法の主目的であり、命令や罰則を中心とする規制的手法が効果を発揮したところでしょう。しかし今日、水質保全の中心的課題は、閉鎖的水域の富栄養化対策に代表されるような、一般項目対策に移りつつあります。特定事業場における「基準遵守力の向上」が重要さを増しているのも、こうした水質保全上の課題の変遷と無縁ではありません。
 このようなときに、相変わらず昭和40年代と同じ「規制的手法」を持ち込むことに、やはり限界があるのではないか。規制主体である行政庁と規制される事業者、という二者関係のもとで、自主測定の促進が、さらには排出水の水質向上が図れるのか。強権的でない別の手法、事業者が一方的に規制されるのではなく、行政庁と対等・協力関係を築くことができるような別の手法が検討されるべきではないのか。むしろ、これまで進められてきた、協定に基づく自主測定の方が比較的優れた方法であり、今回の法改正は自治体と事業者が協定によって長い年月をかけて築き上げてきた信頼関係に、ひびを入れてしまう結果になりはしないか。杞憂かもしれませんが、法改正から半年近く経ち、そのような懸念が首をもたげてきています。


 水濁法の自主測定は、基本的には、排出水について、排水基準のかかる項目についての公定法による分析を念頭においています。
 実務者の感想としては、そんな自主測定は年1回で構わんので、排水処理設備を中心とする事業場施設の運転管理に経営資源を割いていただきたい、と思うところ。
 例えば、回分式の浄化槽で排水処理を行っている場合、反応槽が1つしかないため、槽内の活性汚泥の状態が排水の水質に直結します。排出水の水質分析を何回もやるくらいだったら、その分、施設の日常監視に力を注いでほしいと思います。反応槽のMLSS(活性汚泥濃度)やDO(溶存酸素量)の測定は、水濁法の自主測定義務では拾えない項目ですが、これらを定期的に監視することは、排出水そのものの採水分析よりも、施設の運転管理上重要な項目であるように思います。
 排出水の採水分析を年1回やろうが、年4回やろうが、その間で駄目になってしまうところは結局駄目です。じゃあ月1回に増やせばいいじゃないか、とかそういう問題ではありません。それよりは毎日、ポータブル計、パックテスト、試験紙等で簡易測定をやってもらった方が水質向上につながります。数千円で買える透視度計が1本あれば、それで毎日透視度を測るだけでもずいぶん違いますし、高価なMLSS計を買わなくとも、メスシリンダーが1本あれば、SV30(30分後の汚泥沈降率)の測定が毎日できます。
 毎日現場を見ていれば、活性汚泥の臭いや泡立ちでも状態が分かることもあります。結局、事業者が自分のところの排水(と排水処理設備)に関心を持ち、注意を払うことこそが、排水基準を遵守する力を育むことになるのであって、自主測定の頻度を増やしたところで、事業者に嫌々やらされてる感があるうちは、規制のための規制にしかならず、排出水の水質向上にはならないと思うのです。