届出と審査

 さて、前のエントリで触れたとおり、水質汚濁防止法の届出制度というのは、その是非についての評価はさておき、なかなか周到に、実効性確保も考えて作られている。(それにしても、大企業の大工場ならともかく、角の豆腐屋やクリーニング屋に順守させる上で、果たして適正な実効性と規制の程度を備えた法律なのか、疑問は残るが)
 これと見比べると、土壌汚染対策法4条1項(平成22年4月1日施行の改正法により追加された新制度)の届出制度は、実にぞんざいな作りで、がっかりする。面積3,000平米を超える土地の形質変更(要するに、切土盛土)を行う場合、行為の30日前までに届出が必要で、行政庁は届出を受けた土地に汚染のおそれがある場合に調査命令を出せるのだが、要するに、たったそれだけの制度だ。
 水濁法の届出制度は、届出を通じて、届出者側にも「特定事業場」として、法令に基づく規制基準を順守するよう理解させる狙いもあるから、届出制度に色々工夫を凝らして、届出者自ら水濁法を理解できるようにしているわけだが、土対法4条の届出と調査命令は、単に行政庁が調査の端緒を得るためだけのものであって、別段届出者側の意識の高さなんぞ求めていないから、仕方のないところかもしれない。
 もっと言ってしまえば、水濁法と見比べたときの土対法の評価として、国は要するに、健康被害などが差し迫ったものでなければ、土壌汚染問題であまり大騒ぎしたくないのだろう、という感覚が透けて見える。もっとざっくり言ってしまえば、国はそんなに土壌汚染を厳しく取り締まるつもりはない。(このへんの、土壌汚染に対する国と自治体の感覚のギャップについても色々思うところがあるので、そのうち、別のエントリで詳述したい。)
 ともかく、土対法4条1項の届出を受けた以上、行政庁としては、その内容を審査し、調査命令を発するべきか否かを判断しなければならないわけだが。


先輩「仮に調査命令出すとしたなら、工事着手前に出さないといけないから、届出受けてから30日間で審査しなきゃいけないわけだな?」
俺「いや、30日じゃないですよ。調査命令は行政手続法の不利益処分に当たりますから、命令の前に弁明の機会の付与が必要です」
先輩「え、やべ、そんなのあるの」
俺「(行手法13条以降を解説)というわけで、不利益処分を行う場合は、事前にどのような処分を行う予定かを相手方に通知し、さらに、言い分があれば聞く機会を設けないといけません。弁明書の提出期限については、通知から『相当の期間』としか法には書かれていませんが、まあ、最低1週間は取らないと厳しいんじゃないですか」
先輩「……つまり、届出から30日以内で調査命令出すとしたら、その1週間前に弁明の機会付与の通知をするとして、審査は20日くらいで済ませなきゃいけないと」
俺「そうなりますねー」
先輩「1件の届出で、区域が50筆とかにかかってるんだぜ?それを過去の土地利用状況について全部調べるって、20日やそこらじゃ、大して調べられないだろ。せめて90日前に届出、とかにしてくれないと」
俺「いや、逆に90日もあったら、ほんとに徹底的に調べなきゃいけなくなりますよ。30日前の届出だから、地歴調査にも限界がある、って諦めがつくわけで」
先輩「わーわーわー」