勿論解釈

 土壌汚染対策法では、汚染状況の調査方法は環境省令で定める方法(公定法)によるべきものとされており、公定法と異なる方法で汚染状況調査を行っても、原則として、その結果を法律上の手続に利用することができません。
 この公定法に対してもいろいろ技術的な批判があったりする(30m・10mのメッシュでは粗すぎて汚染の広がりを把握するのに不十分、地層構造を考慮せずに機械的に50cm深度でサンプリングするのは非効率的(地層境界付近を狙って採取すべき)、汚染の状況を把握せずいきなりボーリングを行うことで汚染を下の帯水層に落とす危険がある(検知管やパックテストのような安価な手法による表層調査を考慮すべき)、等々)が、今日はまあその話は置いといて。


先輩「土対法4条2項の調査命令を出すと、命令を受けた者は公定法による調査をしなきゃいけなくなるわけだけどさ」
俺「ええ」
先輩「調査命令の前に、行政手続法の弁明の機会付与をやるじゃない?そうするとさ、実際に命令書を発する前に、事業者が調査に着手しちゃうケースが出てきそうなんだわ」
俺「そうですねー」
先輩「命令書が出される前に、公定法による調査をやっちゃった場合って、どうなんの?その調査結果は命令に基づく調査と認めちゃっていいわけ?」
俺「省令に何か書いてなかったでしたっけ?」
先輩「法の施行前に行われた調査を公定法の調査とみなす規定はあるんだけどさ(土対法施行規則15条)、法の施行後であって、命令発出前ってことになると、特に書いてないみたいなんだよね」
俺「なるほど。じゃあ『勿論解釈』でいきましょう」
先輩「もち……何だって?」
俺「法解釈の方法のひとつで、例えば、Aという行為が明文の規定で認められているときに、より軽微な行為であるBは、法律上明記されていなくても、『もちろん』認められるべきだ」という解釈を行うことです」
先輩「なるほど」
俺「まあ、『勿論解釈』が認められるケースって、滅多にないんですが」
先輩「おい」
俺「でも今回のケースは、勿論解釈が認められてしかるべきだと思いますよ?法の施行前の調査が認められるのに、法の施行後の調査を認めない理由はないでしょう。手続の一部省略(土対法施行規則13条・14条)で解決できればいいですけど、それが無理なら、勿論解釈を持ち込んででも、適法な調査だと認めてやるべきだと思うんですよ」
先輩「そりゃそうだな」


 以上のような経緯により、当市では、土対法の調査命令発出前に所有者等が公定法と同等の方法で調査を行った場合は、その調査結果を調査命令に対する報告に利用できるものと解釈することにしました。少なくとも、担当者2名の間の話し合いではそういう結論になりました。