環境と法務

 法規担当だった頃、環境部門に対しては「環境部って独特だよねー」という印象を持っていました。
 例えば、何かにつけ「これって行政の不作為に当たりますか?」という相談を受けました。法規担当の立場からは「住民監査請求や住民訴訟のリスクはありますか?とか、国賠法による損害賠償請求のリスクはありますか?とか、行政事件訴訟法による抗告訴訟を提起されたときに堪えられますか?とか、具体的な訴訟リスクの話ならできるけど、漠然と『不作為』って言われても困っちゃうな」という回答をしていたわけですが、環境セクションというのは、常に住民の皆さんからの「環境問題に対してちゃんと必要な権限を行使しているか」という厳しい視線にさらされているわけで(実にありがたいことですが)、必然的に「自分たちはやるべきことをちゃんとやっていると胸を張って言えるか」ということに敏感になるわけです。
 あるいは、往々にして、不利益処分だの規制の実施だのについて、法務から見ると「やりすぎだ」というようなことがありました。または、根拠法令に従えば到底行政が口出しをすることができない場面においても「何とかやる手段はないか」という相談を受けたりしました。これは、歴史的に、行政による規制が後手に回ったことにより、四大公害病に代表されるような深刻な環境被害を防ぐことができなかったことへの反省が、染み着いているわけです。
 こうして考えると、環境分野というのは常に政策法務のぎりぎりのエッジ(最先端=端っこ)のところを渡り歩いていたものなのでしょう。早くから「政策法学」を掲げ、地方分権の重要性を訴えておられる阿部泰隆教授や北村喜宣教授が、同時に環境法のスペシャリストであるのもうなずける話です。
 だとすれば、環境行政に携わる公務員としては、政策法務として体系化されつつある、行政目的に応じた法的手段の選択を行うために必要な法律上の素養と、環境行政に特有である、環境リスクの評価と住民への説明責任の観点から必要な手段をすべて講じたと言えるための科学的素養の、両方を兼ね備えていなければならないのでしょう。そして、これまでの環境行政は、いささか後者に傾いていた(法的素養が不足していた)という印象を受けます。


 今後この点については、各自治体でも、人事的・組織的な対応があっても良いかもしれませんね。職員研修の実施(環境部門の職員が法規の研修を受ける機会の増加)とか、環境法分野に明るい弁護士(最近増えてきてます!)と顧問契約を結ぶとか。
 私ですか?……努力します。