施設と業種

 水濁法では、汚水又は廃液を排出する施設であって政令で定めるものを「特定施設」と呼び、特定施設を設置し、かつ公共用水域に水を排出する事業場は、行政庁に届出をしなければならない。
 このような届出義務のある事業場(特定事業場)は、施設の種類及び排水量に応じて環境省令で定められた排水基準を順守しなければならない。
 ところで、排水基準については、時代に即して項目が追加されるなどの改正が行われてきたわけだが、その際、改正後の基準に直ちに対応することが困難な業種の事業場については、暫定的に、本来の排水基準よりも緩やかな基準が認められている(排水基準を定める省令の一部を改正する省令(平成13年環境省令第21号)附則第2項)*1


 さて、ここまでの話で、何か違和感を感じないだろうか?
 法に基づく規制の根拠は「施設」である。所定の施設を有する事業所への規制であり、同一の施設を有するものであれば、同一の規制がかかる。
 ところが、省令の暫定排水基準が適用されるか否かの要件となるのは、「施設」の種類ではなく「業種」である。例えば、温泉旅館はホウ素やフッ素の暫定排水基準適用事業所となるが、日帰り専門の温泉施設は暫定排水基準が適用とならない。施設の内容がほとんど同一であったとしてもだ。いいのか、それで?


 ……種明かしをすると、「特定施設」を定める政令の規定が、ちょっと反則気味になっており、実質的に「業種」による規制に近いものになっている。例を挙げれば、

十六 めん類製造業の用に供する湯煮施設
十七 豆腐又は煮豆の製造業の用に供する湯煮施設
十八 インスタントコーヒー製造業の用に供する抽出施設
水質汚濁防止法施行令別表第一)

 というように「●●業の用に供する○○施設」というのが特定施設のフォーマットである。


 したがって、業種が異なれば、同一構造の施設であっても、一方は水濁法の特定施設となり、他方はならない、という状況が普通に起こりうる。排水の性状までもが同一であったとしても、だ。
 それって、そもそも水濁法2条2項で「特定施設」の定義をした際に、予定されていた出来事なのだろうか?法が「特定業種」への規制ではなく「特定施設」への規制をする仕組みになっているのは、「業種」の判断が客観性を欠き恣意的なものとなる運用上の危険があるから、客観的に同一の性状を有する「施設」を基準に規制を行うためなのではないだろうか?(法規担当の感覚からすれば、そのように考える)それを、政省令で実質的に「業種への規制」に読み替えて運用してしまうことは、法の趣旨を潜脱するものなのではないか?


 要約すると「業種で規制したいのなら、政省令の小手先でやるんじゃなくて法律変えてくれ。法律変えられないのなら、政省令で業種による縛りを入れるんじゃなくて、同一の構造の施設ならどのような業種であっても一律に規制かかるようにしてくれ」ってことだ。
 いやほんと判断に困るんですよ。この前も(以下個人的な愚痴なので省略

*1:ここにも10年続く『暫定』があります