不服審査の存在意義

 果たしてこれも阿部説の勝利、と言えるのかどうか。

課税ミスで固定資産税を多く取られたケースで、不服審判請求(原文ママ)をしないで過払い分の返還が認められるかどうかが争われた訴訟の上告審で、最高裁第1小法廷(宮川光治裁判長)は3日、「不服審査などを経ていなくても、公務員が法的義務に背いて税額を過大に決定した場合は、国家賠償請求を行いうる」との初判断を示した。
 ――6/3日経

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 固定資産税の課税誤りに関し、税法上の還付は5年分までしか行えない(税法上の消滅時効により、5年で援用を要せず確定的に消滅する)。この5年を超える部分を還付することは可能か、可能であるとすればどのような根拠によるべきか、という議論はもう何年も前からあり、自治体の実務ではこれを「補助金」として交付している事例が少なくない。
 この点、阿部泰隆・中央大学教授は、早い段階から「補助金としての還付」に異論を唱えており、当該還付は「国家賠償法に基づく損害賠償」として行うべきと主張してきた……ものと記憶しているが、手元に資料ないので違ってたらゴメン。
 今回の最高裁判決は、固定資産税の課税誤りによる過納金を、国賠法に基づく損害賠償として請求することができるばかりでなく、当該損害賠償請求は課税処分そのものの取消訴訟や固定資産評価審査委員会に対する審査の申出とは無関係に行うことができることを判示したものである。
 ところで、本件最高裁判決により破棄された高裁判決では、課税処分の取り消しを求めることなく損害賠償として過納金の還付を認めることは、地方税法の趣旨を潜脱し、課税処分の公定力を否定するものだと言っていた。これに対する反論は、補足意見に詳しい。宮川判事の意見は「まあ、理論上はそうなるよね」という類のものだが、金築判事の意見は、さらに突っ込んだものであって、検討に値する。

 課税処分のように,行政目的が専ら金銭の徴収に係り,その違法を理由とする取消訴訟と国家賠償訴訟の勝訴判決の効果が実質的に変わらない行政処分については,取消しを経ないで課税額を損害とする国家賠償請求を認めると,不服申立前置の意義が失われるおそれがあるばかりでなく,国家賠償訴訟を提起することができる間は実質的に取消訴訟を提起することができるのと同様になって,取消訴訟の出訴期間を定めた意味がなくなってしまうのではないかという問題点があることは否定できない。

 宮川判事の意見は、違法な行政処分と損害賠償との一般論として正しいが、われわれが今回聞きたいのはそうした一般論ではなく、金銭の徴収のみを唯一の目的とする行政処分である、課税処分についての個別の議論である。この点に言及しているのは金築判事の補足意見だけで、さて、どのように高裁判決に反論しているのかというと、

 取消しを経ないで課税額を損害とする国家賠償請求を認めると,取消訴訟の出訴期間を延長したのと同様の結果になるかどうかは,取消しと国家賠償との間で,認容される要件に実質的な差異があるかどうかの問題である。

 ……アレ?
 そんだけ?
 要件が違うからオッケーって、そんな結果オーライ的発想でよろしかったのかしら?


 そもそも行政訴訟における要件事実とは何であるかについて、民事訴訟の場合ほどに議論は十分に熟しておらず、ケースごとに検討の余地がある、というのが私の認識だ。金築補足意見の「課税処分の取消訴訟の立証責任は原則課税主体、国家賠償訴訟の立証責任は原則請求者」というようなざっくりした理解がそもそも妥当なのかどうかも、個人的には怪しいと思っている。
 この判決に限った話ではないけれど、やっぱり今回も結論ありき、この事案で過納金を還付しないのは正義に反するから、ともかく還付すべき、という結論に後から理由をくっつけてるような印象がある。というか、それってやっぱり、税法の「立法の過誤」を、裁判所の判決という「解釈論」で何とかしようとしているがゆえに生じる歪みなんじゃないだろうか(ああ、やっぱり阿部説になってしまった)。


 ところで、件の金築判事の補足意見に、こんな注目すべき記述があった。

このうち不服申立前置との関係については,固定資産の価格評価は,法的な側面,経済的な側面,技術的な側面等,専門的判断を要する部分が多く,専門的・中立的機関によって審査するにふさわしい事柄であり,また,大量の同種処分が行われるものであるから,固定資産評価審査委員会の審査に強い効力を与えて,その早期確定を図ることは合理的と考えられ,国家賠償訴訟によって同委員会の審査が潜脱されてしまうのは不当であるように見える。しかし,こうした問題は,取消訴訟に前置される他の不服申立てに係る審査機関にも多かれ少なかれ共通するものであり,同委員会を特に他の不服申立てに係る審査機関と区別するだけの理由はないし,固定資産課税台帳に登録された価格の修正を求める手続限りの不服申立前置であっても制度的意義を失うものではないから,不服申立てを経ない国家賠償請求を否定する十分な理由になるとはいえない。


 ※強調部分は引用者によります。

 不服申立前置なんて無駄だ、って内心思ってんじゃ