土壌汚染と瑕疵担保責任

 最近は判例のチェックもサボり気味だったので、危うくこんな面白い最高裁判例を見逃すところだった。


平成22年6月1日第三小法廷判決


 土地公社が工場跡地を購入したら当該土地の土壌から高濃度のフッ素が検出されたので、民法570条の瑕疵担保責任を求めた、という事案。
 争点となったのは、今でこそフッ素は土対法の特定有害物質であるが、売買契約当時(平成3年)にはそもそも土対法は施行されておらず、土壌の環境基準項目としてもフッ素が追加されたのは平成13年、という事情の下で、本件土地の土壌が高濃度のフッ素を含むことは瑕疵に当たるか、というところ。
 結論を言うと、高裁は瑕疵を認めたが、最高裁は一転、売買契約締結当時の取引観念に照らし、売買契約の当事者間において土壌にフッ素が含まれていないことまでも予定されていたとはいえないから、本件土地の土壌に高濃度のフッ素が含まれていたことは瑕疵に当たらないとして、公社の請求を退けた。
 社会通念というか、感覚的に言えば、至極まっとうな判断だと思う。瑕疵担保責任の問題として考える限り、契約時に法律の規制がなかったものについて、事後に規制されることまで瑕疵として売主が責任負わされるとしたら、取引の安定性を損なうことこの上ない。(しかし、高裁では公社が勝ってるんだよな。それが不思議。むしろ高裁判決を読んでみたいところだ。)
 環境屋として若干違和感を感じるとすれば、なぜ瑕疵担保責任が争点になってしまったのか、というところ。(これも、争点が瑕疵担保責任に絞られていくまでの過程を知るためには、1審2審の判決文を読まなければいけないのだけど。)環境行政的には、汚染者負担の原則polluter-pays principle*1という考え方があるので、当該土壌汚染の原因が、当該土地にあった工場にあるというのであれば、当該工場の所有者であった企業が汚染回復について費用負担をするのが自然な感覚ではあるのだけど。瑕疵担保責任の問題になってしまうと、その汚染の原因が何(誰)であるかは議論のテーブルに上らなくなってしまうので、何だか不自然なことになっている気がした。


 それにしても……第三小法廷に藤田判事はもういないんだな……(遠い目

*1:俺的に、この3月まではPPPと言えばpublic-private partnershipの略だったのだが