神戸市外郭団体人件費住民訴訟・高裁判決(その2)

 tihoujitiさま経由で、被控訴人(原審原告)のホームページに掲載されている判決文に行き当たりました。多謝。
 【判決文
 ……うーん、新聞報道と全然違うなぁ。前回予防線張っといてよかった(こら


 債権放棄の議決(正確には、債権を放棄する旨の条例案の議決)により債権が消滅しないとする理由は、財産管理は首長の専権事項であるところ、議会の議決があったとしても、ただちに債権放棄の効果があるわけではなく、それに続く事実行為としての首長の放棄行為がなければ、債権が消滅したとはいえない、とするもの。これは過去に同種の裁判事例があったはず(確か茨木市だったと思う)で、別段目新しい話ではないし、至極論理的で真っ当な判断。
 で、新聞記事であたかも判決理由の核心であるかのように引かれている部分は、実は、以下のような前置きの後に書かれている事項である(リンク先pdfファイルのp47)。

 以上によれば、本件改正条例により本件権利が消滅したとする控訴人の主張は、その余の点について判断するまでもなく理由がないというべきであるが、当事者の主張にかんがみ、なお、本件改正条例中、本件権利を放棄すると定めた規定の効力についても判断を加える。

 ええと、俗に言う「傍論」ってやつですか?
 わが国の裁判制度のもとでratio decidendiとobiter dictumを区別する意義っていまいちよく分からない(実務上の意義はあまりないと思える)のですが、仮に本件について神戸市が上告し、最高裁の判決がいわゆる「三行判決」だった場合には、上記引用箇所以下の部分については、最高裁が是認したものとして以後の裁判を拘束する「判例」になるのでしょうかならないのでしょうか。すいません分かりません。
 それはさておき、本件議決の無効について判示した上記引用箇所以下の部分について見ると、これも新聞報道とは温度差があり、判決では、もっぱら住民訴訟制度の趣旨の部分から本件議決の無効性を導こうとしている印象を受ける。先般の新聞報道では、議決に合理的な理由がないことが「議決権の濫用」であるかのように読めるが、判決は、合理的な理由もなく議決をしたこと等の事情を総合的に判断して、本件議決は市長が行った違法な財務会計上の行為に対する是正の機会を喪失させ、住民訴訟の制度を根底から否定するものであるから、議決権の濫用といわざるをえない、という趣旨である。これなら、だいぶ理解できる話だ。


 それにしても、まったくひっかかりがないわけではない。要するに、住民訴訟の制度と議決を経た(民主的統制を経た、団体意思としての)権利放棄とが阻害しあうということであれば、互いに制度設計時に配慮されていなかった、いわば制度と制度の隙間の問題であり、立法的に解決すべき問題ではないか。
 いや、このような議決を禁止する法律を作れ、っていう単純な問題じゃないけども、ただ何か、裁判所が扱うには若干無理のある問題であるような気はしている。それこそ阿部教授が日頃批判している、立法の不備を解釈で補おうとするから無理な解釈論が横行する、それよりも立法の方を適切に行うことを考えた方が建設的だ、というような話とどこか共通するような、本来的に無理がある話をどこかで無理に解釈論の枠内に押し込んで決着つけてるような、そんな強引な印象は、判決文を読んだ後でも拭い去れないものがある。