神戸市外郭団体人件費住民訴訟・高裁判決

 神戸市が外郭団体に支出した補助金は違法として、矢田立郎市長らに返還させるよう市に求めた住民訴訟控訴審判決が27日、大阪高裁であった。大谷正治裁判長は、市議会が一審判決後、返還請求権をすべて放棄するとした議決は「議決権の乱用で無効」と判断。違法支出は一審判決より約10億円多いとし、約55億円を市長らに請求するよう市に命じる変更判決を言い渡した。市側は上告する方針。
 住民訴訟で司法が違法と判断した公金支出をめぐり、首長が負った賠償責任を地方議会が「帳消し」にする例は各地で相次いでいる。今回の訴訟の住民側代理人弁護士で、住民訴訟に詳しい阿部泰隆・中央大教授(行政法)は「首長らへの債権放棄の議決を無効とする司法判断は初めて。各地の行政や議会への警鐘となる」と話している。
 訴訟は、神戸市が外郭団体に派遣した職員の人件費に補助金を支出したことをめぐって住民が起こした。昨年4月の一審・神戸地裁判決は補助金の一部約45億円を違法支出とし、矢田市長と外郭団体に返還させるよう市に命じたが、市議会は今年2月、市の提案を受け、別の住民訴訟で違法支出とされた補助金を含む約48億円の返還請求権を放棄する条例改正案を賛成多数で議決した。
 この日の高裁判決は、議決の法的効力を検討。請求権放棄に伴う市財政への影響の大きさや、市が市長らの資力を検討していない点などを挙げ、「議決に合理的な理由はない」と指摘した。さらに、議決を「市長の違法行為を放置し、是正の機会を放棄するに等しく、住民訴訟制度を根底から否定するもの」と厳しく批判。「議決権の乱用」と断じ、控訴した市側の「議決で請求権は消滅した」との主張を全面的に退けた。
 そのうえで、補助金の支出について一審と同様に違法と判断。市が05〜06年度に支出を決めた19の外郭団体への補助金計約55億4千万円が、返還請求の対象になるとした。(asahi.com関西版

 阿部先生ネタが続きますよー(違


 さて、上記判決。素人の感覚として、住民訴訟に債権放棄の議決(本件の場合、厳密に言えば「債権放棄の旨を定める改正条例案の議決」だが)で対抗された場合、住民訴訟制度を実質的に骨抜きにするものであるからけしからん、という批判は、非常によく分かる。
 ただその誤りを正すに当たって、司法が出てくることに、何がしかの違和感を覚えないでもない。「議決権の乱(=濫)用」というフレーズに、ひっかかるところがある。独任の機関である首長と異なり、それぞれが選挙という民主的手続を経て選任された議員の合議体である議会においては、その議決は住民の総意であるという強い推定が働いて然るべきじゃないだろうか。何が正当な議決権の行使であり、何が議決権の濫用であるかは、法の解釈や適用の問題ではなく、住民の意思を適切に反映しているかどうかの問題なんだから、基本的には議会そのものの自浄作用によって担保されるべきであって、司法的統制にはなじまないんじゃないだろうか。
 住民のレベルを超える民主主義は存在しない、というようなフレーズをどこかで聞いた(北川正恭氏の発言だったと思うが、ソース不明。申し訳ない)。あえて突き放した言い方をすれば、住民の総意である議会の決定が住民の財産を損なうものであった場合、その損失は、住民が負わざるをえない。それが現実の住民の総意と乖離しているのであるならば、むしろ地方自治法に基づきリコール請求をするなどの「民主的」方法により是正を目指すべきではないのか。あるいは、議会が住民の総意とかけ離れた議決を頻発するようであれば、これはもう、選挙制度に問題があると考えざるをえないのではないか。それを裁判所の判決により是正させようというのは、司法的統制が民主的統制の上に立つような形に感じられて、何だかとても、気持ちが悪い。


 ……オリジナルソースである判決文にまだ当たれていない(下級審の判決は裁判所ホームページにアップロードされるまでに時間がかかるし、公開されない場合もある)ので、上記は新聞報道に対する感想であり、今後判決文を読んだら見方が変わるかもしれません。と、予防線を張っておく。