文系でも5分で分かる!超ざっくり石油化学工業入門(エチレン編)

 はじめに、ちょっと炭化水素の話。


 炭素(C)と水素(H)の化合物を総称して「炭化水素」という。炭素と水素の化合物は、自然界にももちろん色々存在する(例えば我々が毎日食べているでんぷんや糖やアルコールだって、炭素と水素とあとちょっと酸素の化合物だ)が、特に、石油を原料として特定の炭化水素を取り出し、加工することで、人間生活に有用な製品を「大量に」得ることができる。これが石油化学工業である。


 で、化学的厳密さはこの際置いといてざっくり話。
 炭素には「4本」腕があると思ってください。
 水素には「1本」腕があると思ってください。
 炭素と水素と(その他の元素が加わることもある)が、いくつ集まって、どの手と手をつなぎ合うかによって、炭化水素は、さまざまな形(分子構造)を取り、分子構造が異なることで、化学的性質もまったく別物になる。
 例えば、炭素1個が、4本の腕それぞれで水素と結びつくと「メタン」という物質になる。
 炭素6個が六角形に並び、3本の腕を内側に向けてお互いを結び合い、残りの1本を六角形の外側に出してそれぞれ水素と結びつくと「ベンゼン」という物質になる。


 で、今回注目したいのは「エチレン」という物質。
 さっきの説明で言えば、まず炭素2個が、腕を2本ずつ出してお互いに結びつく(これを二重結合という)。残った2本の腕をそれぞれ外側に出して、水素と結び合う。2個の炭素と4個の水素がこのような形で結びついた炭化水素が、エチレンである。
 エチレンは、石油化学工業におけるもっとも基礎的な材料のひとつである。ナフサを高温で処理すると大量のエチレンが得られる(その他にプロピレン、アセチレン、ブタン、ブタジエン等の物質が得られ、いずれも工業上重要な材料である。)。


 石油化学工業から得られる最終製品としては、界面活性剤、接着剤、ワニス、可塑剤等色々なものがあるが、やはり大きなウェイトを占めるのは合成樹脂、いわゆるプラスチックである。
 人工的に作られた高分子体であり、可塑性を有するものを、プラスチックと総称する。……なんて若干専門的を気取ってみたが、要するに、分子がいっぱい並んでくっついていて、容易に形を変えられるものだ、くらいの感覚でここは通させてもらう。
 つまり、プラスチックの製造においては、素材となる分子(モノマーという)がお互いにくっつくように反応させ(この反応を重合という)、分子が並んでくっついた高分子体(ポリマーという)を作る、という工程が行われているのである。


 エチレンは様々な石油化学工業製品の原料になるわけだが、その中で特に、プラスチックの原料として考えると、我々の生活の中にどれほど入り込んでいるか、イメージしやすくなる。
 まず一番分かりやすい例。エチレンを触媒を使って重合反応させると「ポリエチレン」になる。キッチンにあるビニール袋のパッケージをひっくり返して見てみると、ポリエチレンって書いてあったりする。
 エチレンとベンゼンを反応させるとエチルベンゼンとなり、エチルベンゼンからスチレンが作られる。スチレンを重合させるとポリスチレンとなる。別名スチロールとも言う。そう。発泡加工したら「発泡スチロール」ですね。
 スチレンとアクリロニトリルを共重合させると「AS樹脂」となり、スチレン・ブタジエン・アクリロニトリルを共重合させると「ABS樹脂」となる。
 エチレンと塩素を反応させると1,2-ジクロロエタンとなり、1,2-ジクロロエタンからクロロエチレン(塩化ビニルモノマー)が作られる。塩化ビニルモノマーを重合させるとポリ塩化ビニルとなる。管工事とかで使う塩ビ管の、あの塩ビ。
 エチレンと酸素の反応でエチレンオキサイドとなり、エチレンオキサイドからエチレングリコールが作られる。エチレングリコールテレフタル酸の反応で、ポリエチレンテレフタレートが作られる。名前が長いので普通PETと略す。皆様ご存知、ペットボトルの原料ですね。


 これほど多様に利用できるエチレンを生み出す「エチレンプラント」は、石油化学工場の中核といえる生産設備である。
 石油化学コンビナートを形成する工場の中には、基礎的な原料となる物質を製造するところから、中間的な製品を製造するところ、完成品である合成樹脂などを製造するところなど、段階の異なる製品を製造する工場が揃っていて、コンビナートの中で役割分担をしている。
 その中で、最初に原油を精製するのは製油所だが、製油所で精製されたナフサはまず、エチレンプラントを有する石油化学工場において、エチレンを中心とする各種の基礎的な原料に加工される。
 ここで得られたエチレン等の物質は、エチレンプラントを有する工場が自社でポリエチレン等の合成樹脂製造プラントも保有しており、そこで合成樹脂に加工される場合もあるし、エチレンの状態で出荷され、近接する他の工場で別の製品に作り替えられる場合もある。
 したがって、石油化学コンビナートを形成する工場群が、それぞれ何をやっているのかを知るためには、エチレンプラントがどこの工場にあるのかをまず知る必要がある。普通、まず製油所があり、それに近接してエチレンプラントを有する大規模な化学工場があり、これらを取り囲むように合成樹脂などの各種石油化学製品を製造する工場が立地する、という配置が合理的であり、そんな観点から工場を見ていると、それぞれの役割分担が何となく見えてくるのだ。