「他市はこうやってます」

 ある豪華客船が航海の最中に沈みだした。船長は乗客たちに速やかに船から脱出して海に飛び込むように、指示しなければならなかった。
 船長は、それぞれの外国人乗客にこう言った。
 アメリカ人には「飛び込めばあなたは英雄ですよ」
 イギリス人には「飛び込めばあなたは紳士です」
 ドイツ人には「飛び込むのがこの船の規則となっています」
 イタリア人には「飛び込むと女性にもてますよ」
 フランス人には「飛び込まないでください」
 日本人には「みんな飛び込んでますよ」


――『世界の日本人ジョーク集』早坂隆、中央公論新社

 法規担当をやっていると、それどころか、自治体職員をやっていると、少なからず、「○○市ではこうやってます」のようなフレーズを耳にする。もちろん、他市の優れた事例を模倣したり、先行事例をベンチマークしてよりよいものを作り出したりするのは必要なことだが、内容をよく噛み砕くことなしに、他市がやってるからウチも同じようにやっちゃえ、みたいな発想で持ってこられると、少々参る。
 特に、ある事務が適法か違法か、みたいな事案になると、他市がやってるからウチも同じようにやって大丈夫、なんて判断には、まったく根拠がない。いざ裁判になったときに、模倣の元とした他市が責任を取ってくれるわけではないことは、少し考えれば分かりそうなものだ。ちゃんと自分の市の判断として、訴訟となった場合の理論構築や、敗訴となった場合のリスク、メディア対応など、周到な検討を重ねて最終判断を行わなければならない。
 あるいは、他市がやってることに比べ、より優れた方法が見つかったときに、他市がやってないから、という理由でその方法を捨てるのは、あまりにもったいない話だ。しかしながら、「そんなのどこの市もやってないからやめとけ」的な論調にも、過去、何度か遭遇した。正直、残念な気分になる。

 というわけで、当市の法規担当には、少なくとも俺には、「他市はこうやってます」は通じませんので。