受託業者の事故と賠償責任(試論)

 まだ考えがまとまりきっていないが、書いてるうちにまとまってくるかもしれないので試しに書いてみる。


【設例】一般廃棄物の収集及び運搬を市から受託している事業者の従業員が、当該収集運搬作業中に人身事故を起こした場合の市と事業者の損害賠償責任はどのようになるか。


【前提】廃棄物処理法によれば、市町村は、同法6条の2第2項及びこれに基づく政令の基準に従い、一般廃棄物の収集・運搬・処分を、市町村以外の者に委託することができる。当該受託業者は同法第7条の許可を受けることを要しない、とするのが通説である。


【検討事項の整理】

  1. 当該受託業者の従業員は、国家賠償法1条の「公権力の行使に当る公務員」に該当するか。
  2. 当該事故において市は、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条の運行供用者責任を負うか。
  3. 国家賠償責任と運行供用者責任が競合する場合の適用関係はどうなるか。
  4. 受託事業者(使用者)は運行供用者に当たるが、市と事業者との関係はどうなるか。


【検討結果】

  1. 該当する。
  2. 運行供用者責任を負う。
  3. 両方の責任が併存し、選択的併合の関係に置かれうる。
  4. 不真正連帯債務の関係になる。


【より詳しく】
1:国家賠償法1条の公権力性について裁判所は広義説を採り、私経済作用と同視できるもの及び国家賠償法2条の対象となるものを除き、およそ行政の活動である限り公権力性を認める姿勢である。また、国家賠償法1条の公務員は身分法上の公務員に限らない。廃棄物処理法6条の2は一般廃棄物の収集・運搬・処分を市町村の責務とし、第三者への委託は法令の基準を満たす限りにおいて認められるものであるから、当該受託業者の行為を純粋な私経済活動と同視することはできず、委託者である市町村と一体的に業務に当たっているものと考えられる。したがって、受託業者の従業員は国家賠償法1条の公権力の行使に当る公務員に該当すると認められる。
2:運行供用者責任が成立するためには、運行支配と運行利益の双方が認められることが必要であるが、当該受託業者の車両の運行は、市の指示のもと、市の業務である廃棄物の収集運搬を行うためのものであるから、運行支配と運行利益のいずれも認められる。したがって、市は自賠法3条の運行供用者に当たる。
3:どちらの責任も独立した法の条文に基づき認められるもので、また、どちらの条文からも他方を排除する根拠を認めることはできない。したがって、両者に優先劣後の関係はなく、いずれの責任も成立しうるものである。実質的には、請求者がいずれにより請求するものかを選択することとなろう。いずれか一方の根拠により損害の填補がされた場合には、その限りにおいて他方の賠償義務も消滅する。
4:国家賠償法1条の適用がある場合には民法709条・715条の適用はないとするのが最高裁の立場だが、これは国家賠償法1条の代位責任的性質に端を発するものであり、運行供用者という独自の地位に基づいて責任を負うこととなる自賠法3条は、当該最高裁判例の射程外である。したがって、市と事業者とはいずれも責任を免れず、不真正連帯の関係に置かれる。


 ……試論ですから、試論。あくまで個人的見解。しかもまだ迷ってる。
 異論・反論大歓迎です。