小諸市自治基本条例素案

 小諸市ホームページ上で公開されている表題の条例案ですが、なかなか思い切った規定が見られます。

(区の役割)
第8条 区は、対象地域における共通課題を解決し福祉の向上を図ります。
2 区は、まちづくりを推進するため、対象地域に住む人の意見の把握と集約に努めます。
3 本市に住む人は、第1項の目的を達成するため、区へ加入しなければなりません。
4 区は、対象地域に住む人の参加の機会を確保するとともに、参加、協力に必要な環境づくりに努めなければなりません。
5 区長は、区の代表者として、第1項の目的の達成に努めます。

 ここでいう「区」というのは「本市の一定の地域に住む人が、自治意識に基づき主体的に活動する地域自治組織をいいます。(3条6号)」ということで、一般に「自治会」と呼ばれるものと同じと考えられる。
 町会や自治会といった地域・地縁による団体が、行政サービスの受け皿となり、あるいは、県や市町村の行政サービスが行き届かない部分を補う役割を果たしていることは、全国で見られる現象だろう。
 しかし、このような地縁団体に「加入することによってよりよい行政サービスが受けられる」というインセンティブにより加入を促すことは一般的であるとしても、「加入しなければならない」とまで言い切る事例は、おそらく非常に珍しいのではないかしら。
 もちろん、このような規定を安易な考えで入れたわけではなく、相当の熟慮を重ねた上で現在の形に落ち着いたのだ、ということは、上記ホームページからワーキンググループの協議の経過などを追えばよく分かることだ。
 逐条解説によれば、上に引いた8条3項の意図は

 第3項では、ごみ出しルールを守ること、道路清掃等への参加や防犯、防災活動などへの参加や助け合いが、地域で生活していくために果たすべき責務であることの認識から、小諸市へ住む人は、その地域の区へ加入し、活動していくことを決意として規定しています。
(※強調部分は引用者による)

 とのことで、「決意」の表れと読める。「努力目標」にとどめず「決意」を見せたところから、何らかの思い入れというか、メッセージを受け取らなければなるまい。


 ところで、ここで小諸市条例案が「区への加入義務を明言した」ことの背景にある問題は、実は「地域内分権の問題」なのだ、というふうに私は理解している。
 右肩上がりで国民全体が同じ方向を向いていられた時代はとうに過ぎ去り、地域ごとの多様性と独自性を無視することができなくなってきた昨今、われわれ基礎自治体は「地方分権」の名のもとに、国から権限と責任を引き受けることを求め、また求めざるをえなくなっている。その際、国と自治体の関係だけで考えれば、国よりも住民に近いところにある基礎自治体が、細部においてより住民の意思を反映し集約する能力に優れている、ということを大義名分として、いっそうの権限委譲を求めることができる。
 ところが、基礎自治体こそが、地域住民の意思を直接的に反映・集約する最良の行政単位か、というと、必ずしもそうとは言い切れないところがある。特に最近の市町村合併で区域が広がった自治体に顕著だが、そうでなくとも多かれ少なかれ、同一自治体内での地域格差とか、地域ごとの要望の開きだとかが、無視できないものになっている。これはつまり、基礎自治体よりもっと小さな地域的広がりにおいて、政策を検討する必要性があることを否定できないのだ。
 小諸市条例で「区」にスポットライトを当てるのは、まさに地縁団体を「市より小さな行政単位」として考えることに等しいのであって、この発想は、8条2項で区の役割を「対象地域に住む人の意見の把握と集約」としたところに、端的に現れている。
 そうすると、小諸市条例の課題は、8条2項の区の役割を「努める」という努力規定で終えていることと、8条3項の住民の加入を「しなければならない」という義務規定にしてしまっていることとのアンバランスにあるのだ、という気がしてきた。地域住民の区への加入を強く求めていくのであれば、区が果たす民主的・自治的役割について、何らかの制度上の保障がなされていなければいけないのではないか。
 結局、自治基本条例で、市より小さな行政単位としての「区」について触れてしまった以上、この「区」における民主的統制(例えば、区の設置手続とか、区長の選出手続とか、区から市への意思伝達の仕組みだとか)についても、それ相応の制度設計をして、その制度の根幹部分は条例事項としなければならないのだろう。その意味で、今回の小諸市自治基本条例素案は、従来の自治体における地縁団体の考え方からは「一歩踏み込んだ」点を高く評価できるものの、これがゴールではなく、地縁団体のあり方・仕組みについてより深く考えるための第一歩として評価すべきものなのではないか。地域自治区?なにそれ食べれるの


 以上、つらつらと勝手な感想。