行政上の義務履行確保

 環境部門から違反是正について相談を受けると、なんだかとても申し訳ない気分になる。今日はつい「ろくな武器がない中で苦しい戦いを強いられていることのご苦労は分かります」と口走ってしまったが本音なので後悔はしていない。
 さて、法律や条例、あるいはこれらに基づく命令により義務を課せられた者が義務に従わない、違反状態にある場合。特に、端から義務に従うつもりなどない「居直り」の違反者の場合。これに何とか法令順守させようというのは、難しい。というか、ほとんど不可能に近い。
 行政上の義務履行確保にかかる主要な課題については、宇賀克也「行政上の義務履行確保等の事例【総論】行政上の義務履行確保の課題と対策」(『自治体法務研究』No.6)がコンパクトにまとまっていて便利。とはいえ、今手元にないので、この記事は私の記憶と認識を頼りに、行政上の義務履行確保にかかる課題について以下ざっくり整理してみる。

  • 行政代執行…法2条の要件充足が困難。費用面の不安。総じて機能不全。
  • 行政刑罰による威嚇…高額所得の法人犯罪に対する抑止力は皆無。警察の威を借りるほかなく、処分行政庁自体は無力。行政罰を受けること自体は違反状態の是正になんら寄与しない(ミソギ効果)。
  • 過料による威嚇…行政刑罰による威嚇と同様の課題(抑止力の不足、ミソギ効果)を抱える。不利益処分の事前手続を要することが、実務上、時として致命的になりうる。
  • 条例による簡易代執行制度・又は執行罰の創設…行政代執行法1条・2条の総合解釈から、違法の疑いが強い。
  • 民事訴訟による義務履行確保…不可能。宝塚パチンコ条例事件最高裁判決で引導を渡された。
  • 条例による即時強制制度の創設…下級審の裁判事例ではこれを認めるものがある(横浜市プレジャーボート条例事件)が、簡易代執行制度の創設が違法とされるのに比してバランスがおかしい。本来、行政代執行以上に要件充足が慎重に判断されるべき話。そもそも、義務履行確保じゃないところに無理がある。
  • 条例による制裁的公表制度の創設…威嚇効果が安定しない(公表の相手方の業態等によって、多大な経済的ダメージになる場合も、痛くも痒くもない場合もある)。制度設計についての議論は未熟。

 ……結局国が法律改正するしかないのね、と暗澹たる気持ちになる。
 枠法的な制限は必要としても、何らかの形で、条例による簡易代執行制度・執行罰制度の創設の道が開かれることが、自治体職員にとってもっとも望ましい解決策だと思われる。そうでなきゃ環境関係は全部国が面倒見てくれるとか