会計管理者とは何者か

会計担当部門に異動してからずっと、いや、その前からも、結局、会計管理者って何者なのか、というのが分からないでいました。

形式的には一般職の職員ですし、「部」とか「課」のような長の補助機関(補助組織)だと捉えればよいのでしょう。しかし、旧収入役の規定を色々引き継いでいるために、自治法上、特別の役割を課せられている機関でもある。

なので、会計管理者(と、会計管理者を補助する会計職員)は、何ができて、何をすべきでないのか。財務規則の改正の発議は会計管理者の組織でできるのか。決算書の有償頒布は会計部門で行ってよいのか(特別職である収入役の時代は、これらの業務は収入役と会計部門でやるよりも「長の(直接的な)補助機関」である財担部門とかでやった方が良いのかなーという気はしてた。しかし会計管理者は、それ自体が長単独で任命され、普通に人事異動で入れ替わる「長の補助機関」の色合いが強いしなー、などと悩んでいたのですよ)。

 

気になりすぎたので、法改正当時の地方制度調査会(第28次調査会)の資料をウェブで追っかけてみました(なお、総務省ウェブサイトの公開期限は切れてページ削除されてましたが、国会図書館ウェブサイトから魚拓が拾えました)。

平成18年法律第53号による自治法改正前は、出納長又は収入役という特別職が置かれていたことは、皆様ご存知かと思います。…とか安易に言ってしまうけれど、最近の若手職員にとってはそれも当たり前のことじゃないのよね。もう10年以上も昔の話だもんなー。

特別職であって、任期中は長が一方的に解任することはできず、ある程度の独立性を担保された機関でした。なので、公金の支出には長の命令が必要な一方、長から一定程度独立した出納長又は収入役がこれを審査し、いかに長の命令であっても違法な命令であれば金庫には手を付けさせない、という「最後の金庫番」の役割を果たしていたわけです。

ところが、28次地方制度調査会においては、出納長又は収入役を必置とする規定は不要ではないか、という観点から議論が進められました。会計事務の電算化が進んだから特別職の収入役を置かなくてもよくなったのではないか、みたいな話もごにょごにょやってましたが、先に挙げた「金庫番」の役割から考えればこれは見当外れな話で、単に「今までは意義ある制度だったけど今はもう無くても大丈夫になった」という論調に持って行きたいための後付けの言い訳でしょう。それより「収入役の必置規定がない町村で、長又は助役が会計事務を所掌する場合があるが、それでも問題なく回っている」→「そもそも、収入役っていなくても大丈夫なんじゃないか?」という議論の方が、本音の現れているところだと思います。

ところで28次地方制度調査会の大テーマの1つが「地方の自主性・自立性向上のためのトップマネジメント体制の推進」ということでした(各委員会など、他の執行機関をどうするか、というのも、このトップマネジメントの観点から議論されています)。収入役制度もこの大テーマに沿って、もともとは「必置規定を無くし、収入役の設置の有無を自治体の自主選択としてはどうか」という話から議論をスタートしていました。

細かい議論の場は専門小委員会となりましたが、有識者委員の意見はほとんどなく、この件についての発言は(事務局を除いては)地方六団体くらいからしか出ませんでした。

地方六団体の意見をまとめると、特別職としての収入役の必置規定の意義は乏しいよね、だから取っ払ってしまった方が良いけれど、その場合、組織内で何らかのチェック体制を築く必要があるよね、という、至極真っ当なものでした。

ところがこれを受けて、事務局案で、少なくとも議事録として公表されている中では何の前ぶれもなく、突然、「会計事務の執行に責任を持つ一般職の職員」への言及がされるようになります。(第29回専門小委員会)

この事務局案はその後特に議論された形跡もなく、そのまま残り、最終的な答申でも「特別職としての出納長・収入役制度は廃止する」ことを明記する一方、「一定の会計事務をつかさどる一般職としての補助機関を置くなど」会計事務の適正を図る仕組みが必要、という文言が入りました。

そしてこの答申を受けて、総務省で作成された改正法案には、必置規定としての会計管理者制度が盛り込まれてきたわけです。

 

以上が、地方制度調査会及び小委員会の議事録から私が読み取った経緯です。

ここでは、議論が途中で一度飛躍し、さらにそれが法案となる際にもう一度飛躍しているように感じられます。

最初の飛躍は、そもそも「トップマネジメント体制のために収入役の必置規定を無くすべきではないか?」という議論から、問題点がすり替えられて、「特別職としての収入役は不要であり、一般職で足りるのではないか?」という問題に矮小化されていることです。

二番目の飛躍は、「一般職の補助機関など、会計事務を適正にする仕組みが必要」という話を「一般職の補助機関が必要」という話に短絡化してしまったことです。

この二つの飛躍が重なって、もともと「必置規定を無くそう」といって始まった議論が、「新たに必置規定を設ける」というわけの分からない着地点に到達してしまったわけです。

 

そんなわけで、当初の疑問「会計管理者とは何者か?」ということの答えとしては、「そもそも確固たる哲学のない弥縫的な法改正なのだから、そんなことの答えはない」というのがロバ耳的結論となります。

もちろん、議事録として活字化され、ネット上で拾えた情報だけからの判断なので、偏りはあると思います。当事者(総務省の中の人とか)には別の言い分があるかもしれません。しかしそれでも、この法改正は本来、会計をつかさどる組織をどうするかまで含めて長のトップマネジメントとすべきだったのであって、会計管理者のような中途半端な必置規定を残す(町村においては、むしろ規制が強くなったとも言える)のは間違いだったと思うのです。