学校給食費の徴収根拠

 学校給食費の滞納問題というのも、古くて新しい問題だ。
 そもそも、市がその設置に係る学校の児童生徒の保護者から、給食費を徴収することのできる法的根拠の考え方からして、諸説ある。以下に並べてみる。

1:羽田発直行便で新千歳
2:学校給食法11条2項が、保護者に給食費支払い義務を課す直接の根拠である
3:市と保護者の間に学校給食の売買契約が成立している
4:自治法224条の分担金として条例で定めるべきである
5:条例により公債権とするか、契約により私債権とするか、市に裁量の余地がある
6:恐怖!地獄の深夜バス『はかた号』で博多

 何か関係ないものが混ざってる気がするが気にしてはイケナイ。


 真面目な話。(以下では便宜上、順に「法律根拠説」「売買契約説」「分担金説」「公債権可能説」と呼ぶ)
 実のところ、上記いずれの説にも、解釈上または実務上の看過できない問題がある。
 まず「法律根拠説」だが、学校給食法11条2項の規定は、素直に読めば「費用の負担区分を示したもの」にすぎず、老人福祉法28条や児童福祉法56条との比較の観点からも、これを費用徴収の直接の根拠と読むには無理がある。
 「売買契約説」については、契約成立の根拠たる保護者の「申込」をどこに認めるか、という問題があるし、仮に保護者に申込の意思がない場合、給食の提供を拒否できるのか、という問題を生ずる(学校給食実施基準(平成21年文部科学省告示61号)との関係も気になるところだ)。
 「分担金説」も自治法224条の解釈問題として、すべての児童生徒を対象とする学校給食の性質に照らし、利益のある一部の特定者に課する分担金との解釈は苦しい。
 「公債権可能説」は、自治体の条例制定権を広範に認める立場だが、学説・行政実例の現状からは、未だ少数説と言わざるをえない(北村喜宣教授なら応援してくれるかもしれないが)。
 ちなみに、ぎょうせいから最近出た『自治体のための債権管理マニュアル』は売買契約説を採り、(財)地方自治研究機構が発行する季刊誌『自治体法務研究』は分担金説を紹介している。伝統的な行政実例は「教科書代同視説」を採り、概ね「売買契約説」と同等の理論構成である。


 それぞれの説に対応した実例を探してみたら、予想以上に多く見つかった。
 まず、法律根拠説。学校給食法が徴収根拠なので、徴収根拠として新たに条例を定める必要はなく、事務取扱いについて規則なりを定めておけば足りる。埼玉県朝霞市、千葉県香取市など。
 ついで売買契約説。保護者からの申込は黙示で足りるとする説もあるが、訴訟等を視野に入れるなら適切でない。書面による申込の意思確認を行った事例として、千葉県市川市が知られている(新聞報道など)。
 分担金説は、分担金条例の定めが必要。埼玉県神川町など。
 公債権可能説の立場を明らかにしている市町村は発見できなかったが、福岡市や静岡県磐田市の条例などは、公債権可能説によって認められる可能性はある(ただしどちらの市も、条例制定時の議会答弁等によれば、明確に公債権可能説を支持したものではなく、含みを残している)。


 以上を踏まえた現実的な落としどころとしては、主位的に公債権可能説を主張し、予備的に法律根拠説及び売買契約説の余地を残したうえで、給食条例を制定するとともに、保護者の同意確認を行う、という辺りを個人的に考えているが、今後も要検討。