長野逐条が捨てられない

D-lizの自宅本棚には、埃っぽい長野逐条が、捨てられずに置いてあります。長野逐条です。ここ大事なので2回言いました。

いまの自治体職員で、もはや「自治の神様」長野士郎を知る人も少なくなってきたでしょう。私が役所に入ったのは2001年(平成13年)ですが、まさにその頃に「逐条地方自治法」の著者も長野士郎から松本英昭に交替したように記憶しています。

D-lizの持っている長野逐条は、別の自治体で長いこと務めていた父が、「新しいの買ったから古いのお前にやる」とお下がりをくれたものです。今、奥付を見てみたら、平成5年発行の第11次改訂新版でした。

 

入庁当初はこんな骨董品でもそれなりに開いて見ていたのですが、さすがに最近ではほとんど手に取ることがなくなりました(そもそも、職場に行けば松本逐条があるし)。

それでも未練がましくこの本を捨てられずにいるのは、まれに、ごくまれに、改正されて今はなくなってしまった昔の制度を調べる必要があるからです。

 

近年、地方自治法は改正を繰り返したため、だんだん元の制度が分からなくなってきています。

若い職員に制度の解説をするときに、例えば、会計管理者とは何か。今の自治法の上っ面だけを解説するより、明治時代からあった収入役制度に触れながら説明した方が、断然、話に奥行きが出るのです。

指定管理者制度導入前の公の施設の管理はどうなっていたか。分権一括法より前の地方公共団体の事務はどのようなものであったか。改正法は次々に上書きされていき、元あった制度の痕跡は次第に失われていきます。しかし、だからこそ、時々昔の制度はどうだったかを調べ直し、今の制度をそこからの連続として捉える視点が必要だと思うのです。

こうした昔の制度を理解しようとしたときに、今簡単に手に入る文献だけではどうしても足りないことがあり、昔の長野逐条と最近の松本逐条を並べて読むことで(あるいはそこに、当該箇所の法改正当時の地方制度調査会の答申を並べたりして)ようやく制度が立体的に捉えられる、ということも、実際にあったりします。

 

自治法の解釈は、いや、言ってしまえば行政法学全体が「官学」の色合いが濃く、権威あるいはメインストリームがはっきりしているところがあります。

往年の権威的な理論、伝統的に主流とされてきた解釈を知ることは、(利用するためであれ批判するためであれ)今日の制度を理解するための前提として、必要なものだと思うのです。