債権者からの破産手続申立

徳島市が、徳島市観光協会の破産手続開始の申立をしたというニュースが。

 

阿波おどり赤字4億、市観光協会の破産申し立て
2018年3月2日 14時07分
 毎年8月に徳島市で行われる阿波おどりを主催する市観光協会が、約4億2400万円の累積赤字を抱えていることから、同市は2日、協会の破産手続きの開始を1日付で徳島地裁に申し立てたことを明らかにした。

(読売新聞ウェブサイト「読売オンライン」より)

 

事実関係はマスコミ等に任せるとして(当事者それぞれに言い分がありそうだし)当ブログでは手続面をちょっと解説。

いわゆる「倒産」というのは厳密な法律用語ではありません。債務超過などで事実上の倒産状態に陥った法人について、法的に債務整理を進める手続としては、概ね以下のようなものがあります。

 

【精算型手続】

  • 破産法に基づく破産手続
  • 会社法に基づく精算(特別精算)手続

 

【再建型手続】

 

精算型手続は、手続の終結をもって法人を精算する(法人格をなくす)手続です。これに対し再建型手続は、法人を存続させながら債務整理を行う手続となります。

 

破産手続開始の決定をするのは、裁判所です。

よくあるパターンとしては、債務超過に陥って事業の継続を断念した法人自身が、破産手続の開始を所轄の裁判所に申し立て、裁判所が開始決定をすると、破産手続に移行することになります。

ところで、破産手続開始の申立は、債務者本人だけでなく、債権者からも申し立てることができます(破産法18条1項)。法人自身の意思に基づかないものであるため、申し立てがされたからといって裁判所が機械的に開始決定をするわけではなく、双方の言い分を聞いて慎重に判断することになります。申立人となる債権者は破産手続開始の原因となる事実について疎明を要し(同条2項)、裁判所は決定の可否判断に先立ち、債務者に対して審尋を行うのが通例です。

したがって、債権者が申立をしただけではまだ破産手続は開始しておらず、その後の裁判所の判断でもって破産手続の開始となるわけです(この点、すでに「徳島市観光協会が破産した!」という記述を個人のブログなどで散見しますが、正確な表現ではないと思います)。

 

ところで、徳島市徳島市観光協会の「債権者である」という立場でもって、破産手続開始の申立をしているわけですが、もともと徳島市観光協会の最大の債権者は、協会に資金を貸し付けている金融機関でした(市は金融機関に対し、協会の損失補償をしている立場です。外郭団体の損失補償契約の可否については10年くらい前に全国で住民訴訟が相次いだところですが、債務保証は認められないものの、損失補償契約にとどまる限りは違法とはいえない、というのが判例のスタンスです。閑話休題)。

徳島市は今回の破産手続開始の申立に先立ち、金融機関から協会への債権を買い取って、自らが最大債権者となって申立に至った、という事実関係のようです。

 

さて、債権者が破産手続開始の申立をするに当たっては、債務者が支払不能債務超過にあることの「疎明」が必要です。

疎明とは、完全な証明とはいかないまでも、裁判所が一応それらしいという心証を抱く程度にまで証明することです。

債務者本人が破産手続開始の申立をする場合には、自らが支払不能であることを裁判所に示すだけですから、特別なことはありません。しかし、債権者が申し立てる場合、「債権者が債務者の財務状況を裁判所に示す」というハードルがあります。債務者は普通、破産手続開始を迫る債権者に対して友好的ではないでしょうから、債権者が債務者の財務資料を手に入れるのは、なかなか難しい作業です。

今回の事案では、徳島市地方自治法221条の調査権に基づき協会の財務状況を調査し、これをもとに申立を行っているようです。

 

以上、要点を復習しますと、

  1. 破産手続は精算型手続であり、破産手続が終結した際には、破産者の法人格は消滅する。
  2. 破産手続開始の申立は、債権者からも行うことが可能。徳島市は、金融機関から協会の債権を買い取り、最大債権者となって申立をした。
  3. 破産手続開始の決定は裁判所が行う。現状は「破産手続の開始を申し立てた」段階であって、まだ破産手続の開始が決定したわけではない。
  4. 債権者からの破産手続開始の申立には、疎明が必要。徳島市は、自治法221条による調査結果をもとに申立をした。

ということのようです(事実誤認があるようでしたらご指摘をお願いします)。

 

…自治体職員が倒産法制を学ぶ必要にかられる、というのもなかなか世知辛い話です(10年くらい前、法務にいた頃にちょっとだけ勉強しました)。

以上、自らの備忘録を兼ねてちょっと解説。

 

×精算 →○清算

このへんがスマホ更新のいかんところです。大変失礼しました。

(3/16追記)