大陸法から英米法へ

 皆さん行政法の教科書って誰のを使ってますか。
 法規担当になった当初は、学生時代に買った原田尚彦のを使ってたのですが、度重なる法改正について行けなくなってきたので、適宜大橋洋一や阿部泰隆の教科書を買って凌いできたところ、最近ついに、(新版が出たのにかこつけて)宇賀克也の『行政法概説』を公費で買ってもらいました。
 趣味で読むならともかく、公務に用いようとするなら、行政手続法と情報公開法の説明が手厚くないといけない、というのが、この5年の経験から感じたこと。


 うちの役所は、行政手続法・条例と情報公開法・条例について、それぞれ法規担当ではない別の部署が所管しているのだけれど、行政手続や情報公開についても法規担当に相談を持ちかけられてしまうことが多いので、一応、これらの制度については、私に聞いてもらっても、原則論の部分くらいは説明できるようにしている。
 で、過去の相談事例から思うことは、相談者の側に「何でこんな制度があるんだ面倒くさい」という感覚が透けて見えることが少なくない、ということ。
 その際に、行政手続法や情報公開法がどのような考え方を背景に持っているのか、ということを多少説明できると、納得してもらえることがある。
 ざっくり言うと、日本の行政法制度はもともと、司法裁判所と行政裁判所を別に置く大陸法モデルから始まっていて、公定力をはじめとする行政行為の優位性が肯定され、行政権力に特別の法律関係を認めてきたのが、日本国憲法のもとで裁判所が一元化されたことによって、行政の法システムが英米法モデルへとゆるやかに転換を始めた、とかそんな話。
 別の言い方をすると、行政のやることはある程度正しいとの前提のもとに、公定力を認め事後的救済に重きを置いていた従来の制度から、行政だって間違いを起こしうるとの前提のもとに、事前手続の正当性と行政過程の透明性に重きを置く制度への移行であるともいえる。
 まとめると「行政って信頼されてないんですよ(だから、行政手続法や情報公開法が必要なんです)」ということ。


 行政手続、特に不利益処分の事前手続については、適切な例えではないかもしれないが、刑事訴訟と比較すると納得してもらえたりする。「ほら、どんな凶悪事件の現行犯だって、刑に処せられる前には絶対に裁判受けられるでしょ。それと似たようなもんです」
 情報公開制度については「市が管理している情報は、市役所の情報じゃなくて、市民みんなの情報です」っていうのが殺し文句になる。なんで情報公開制度なんてあるの、とか、開示事務の作業こんだけ大変なんだから手数料取ればいいのに、とか言われちゃったときには、是非お試しあれ。