フグは食いたし(ところで法的根拠は

スーパーのフグの切り身に肝が入ってたというニュースが。

15日に肝臓を含んだヨリトフグの切り身を7パック準備し、5パックが売れた。同日午後、購入者の一人から「パックに肝臓が入っている」と豊川保健所に連絡があり判明。県は同法に基づきスーパーに回収命令を出していた。

(1月16日朝日新聞デジタル配信記事)

ヨリトフグ。はて、聞いたことない。

動物オタクとして知らないことが悔しいので速攻ググりましたが、あまり市場流通量の多くないフグのようですね。ハコフグなんかと同様に、市場に出回らず地元で小規模に食用とされていたものが、よく調べてみたら毒があった類ですかね。

とはいえ、自分で釣ったものを食うなら自己責任という考え方もあるでしょうが、不特定多数に販売するものであれば、中毒の可能性があるものは提供しないのがルールとしてあるべき姿でしょう。

 

ところで、新聞報道でも厚生労働省ウェブサイトでも、フグの種類にかかわらず肝の販売は「法律で禁止されている」と表現しています。

スーパーの担当者は県に「毒性が低く、有毒との認識がなかった」と話しているという。ただ、厚生労働省によると、フグの種類にかかわらずフグの肝臓の販売は禁止されている。

朝日新聞デジタル前掲記事)

 

厚生労働省では、通知「フグの衛生確保について(局長通知)」(昭和58年12月2日環乳第59号)において、食べることができるフグの種類、その部位等を定めています。
厚生労働省が定めたフグの種類、部位以外のもの(具体的には、別表1表中の×で示された部位、卵巣(通知に定められた卵巣・皮の塩蔵品を除く。)、肝臓等の部位並びに表中に示されていない種類のフグの全ての部位(筋肉、皮、精巣を含む。))の販売、提供等は食品衛生法で禁止されています(違反した場合は、3年以下の懲役又は300万円(法人の場合は1億円)以下の罰金)。

厚生労働省ウェブサイト

 

だけど、なんで「局長通知」を根拠に「食品衛生法で禁止されています」とまで言えるのか、分からないのよね。

局長通知の中で根拠とされている規定は食品衛生法6条2号で、

第六条 次に掲げる食品又は添加物は、これを販売し(不特定又は多数の者に授与する販売以外の場合を含む。以下同じ。)、又は販売の用に供するために、採取し、製造し、輸入し、加工し、使用し、調理し、貯蔵し、若しくは陳列してはならない。
一 腐敗し、若しくは変敗したもの又は未熟であるもの。ただし、一般に人の健康を損なうおそれがなく飲食に適すると認められているものは、この限りでない。
二 有毒な、若しくは有害な物質が含まれ、若しくは付着し、又はこれらの疑いがあるもの。ただし、人の健康を損なうおそれがない場合として厚生労働大臣が定める場合においては、この限りでない。
三 病原微生物により汚染され、又はその疑いがあり、人の健康を損なうおそれがあるもの。
四 不潔、異物の混入又は添加その他の事由により、人の健康を損なうおそれがあるもの。

という規定ぶりです。

なるほど確かに、有毒あるいは有毒疑いのものの販売等は禁止されています。しかし、何が有毒であって何が有毒でないかの区別を、厚生労働省が局長通知で、どうしてできるのでしょうか。一次的に解釈を行うのは同法に基づき実際に業務を行う機関(保健所、警察、検察)で、終局的な法解釈の権限は裁判所にしかないのではないでしょうか。

本来であれば「疑いがあるもの」で罰則の構成要件にしてしまっては、一見、罪刑法定主義のうち明確性の原則に反する、とも思えます。そうならないためには「有毒な~疑いがあるものとして厚生労働大臣が指定するもの」とかにして、規制対象となる有毒なものをいちいち告示する、とかの形の方が、立法論としてあるべき姿のように思えます。

難しいのかな。予想もしない毒物が突然市中に広まって、規制が後手に回る辛さは、いち行政職員としては分かる気がする。(脱法ドラッグ、今でいう危険ドラッグの規制のとき、微妙に構造の異なる化学物質が次々に出てきて規制の網を逃れていた記憶がある)

 

…ところで、フグ調理師は免許が必要、というのが世間の常識ですが、フグ調理師免許の根拠は食品衛生法にはなく、各都道府県の条例が根拠となっているので、都道府県ごとに微妙に規制の内容が違ったりします。

どうなんだろうね、これも。