発生主義、複式簿記

 隔月刊、というあたりでオナシャス(汗


 で、5月末くらいに総務省から公会計改革についての通知文書が来たりしてるのですが、皆様ごらんになりましたでしょうか(リンク)。
 事ここに至るまでには超いろいろあった(と、いうことを最近勉強して知った)のですが、ざっくり要約すると、地方公会計制度に発生主義と複式簿記の考え方を導入する、というのが目標。(そのために総務省システム開発して自治体に配るから、3年以内に複式簿記を導入せい、ということの模様)


 現在の地方公会計制度は現金主義の考え方によっている、というのが通説です。(通説と言ったのは、厳密に言えば、出納閉鎖期間における会計は現金主義的と言い難いところがあり、その意味で修正付き現金主義とでも言うのが正確なのではないか、という理解から)
 現金主義というのは、実際に現金が動いたときに帳簿に記録する、という会計の手法です。
 これに対し、企業会計は通常、発生主義によります。発生主義というのは、資産の移動に係る原因が発生した時点で帳簿に記録する、というもの。
 現金主義は実際のキャッシュの動きを追うことはできますが、継続的な経済活動を行う中で、長期的な資産や負債の評価ができないことがデメリットであると理解されています。


 また、自治体の会計は通常、単式簿記により記録されています。単式簿記というのは、もっぱら資金の出入りのみを記録するものです。
 これに対し企業会計は、通常複式簿記により記帳します。複式簿記とは、取引の二面性に着目し、資金の増減と資産の増減を同時に記録するものです。
 例えば「1000万円の現金で土地を買う」という取引を記録する場合、単式簿記であれば「1000万円の支出」と記録するところ、複式簿記であれば「1000万円の土地を取得/1000万円の現金を支出」と記録することになります。
 単式簿記の方が記録が簡便であるのは確かですが、複式簿記ではフローとストックを同時に記録できるため、複式簿記からは貸借対照表(バランスシート)及び損益計算書(行政の場合、行政コスト計算書。機会があればまたの機会に詳述)がほぼ自動的に抽出できます。


 自治体における継続的な経済活動の把握、財政の持続可能性に対する長期的な評価、住民に対するストック資産を含めた財政情報の開示の必要性などから、より透明性が高く、ストック情報を把握できる財務諸表を作成するために、自治体の会計にも発生主義と複式簿記を導入すべきだ…というのが、模範的回答です。


 で、俺様ひねくれ者なので、ついつい邪推しちゃうのよね。
 発生主義と複式簿記に一定のメリットがあることは認めるし、ストック資産に関する情報の把握と公開の重要性については議論の
余地はないと思うんだけど、はてさて、何だってこんなに国主導で(ご丁寧にシステム開発までしてくれるそうで)一斉に同一制度の導入を急ごうとするのか。
 例えば、今後の公債発行による資金調達は、自治体の責任で行うべきだとして、いわゆる「暗黙の政府保証」を外す方策を検討していて、IR情報としての財務諸表の作成をさせる必要があるんじゃないかとか。(注:根拠のない妄想です)
 あるいは、国・地方合算でのプライマリーバランスを、時宜に即して、正確に出す必要があるから、地方財政の財務諸表を一括してただちに国が入手する必要があるんじゃないかと。それというのは、国の財務諸表だけでは国際マーケットでの信用を得るのに若干問題があって、言うなれば地方と連結の決算としないと国際的信用が得られないんじゃないかとか。(注:やはり根拠のない妄想です)


 まあ、発生主義と複式簿記の導入に反対する気はまったくないのですが、そうは言っても、現金主義と単式簿記は、総計予算主義と会計年度独立の原則からの要請だと思っているので、そのへんの法制度に根本的に手をつける覚悟がなければ、結局「単式簿記複式簿記の両方で会計記録をつける」という二度手間が全国で行われるだけだと思うんですけどね。(東京都などはその当たり、現行の法制度のもとでの次善策だと割り切って複式簿記を導入している覚悟があるようで、このへんの覚悟が全国で共有されていく必要があるように感じます)