文系でも5分で分かる「環境中の放射性物質の動向」

 だいぶ前の話で恐縮ですが、3月に日本水環境学会の研究発表会に行ってきたのですよ。まさか俺様の人生で東大のしかも工学部に足を踏み入れる機会があろうとは。
 で、そこで聞いてきた話のうち、素人的に重要な部分(学術的に重要な部分とは必ずしも合致しない)を適宜大ざっぱに噛み砕いて箇条書き。

  1. 福島第1原発の事故による放射性物質の放出は、アジア・モンスーン地域における初めての大規模な放射能事故の事例であり、チェルノブイリとは異なる以下のような特徴に留意する必要がある。
    1. 多雨である。
    2. 台風による土壌の大量流出がある。
    3. 広葉樹林が優勢である。
  2. 大気中に放出された放射性物質(Cs-134及びCs-137。以下同じ)は、降雨により落下し、森林においてはまず樹冠部に付着する。
  3. 樹冠部に付着した放射性物質は、森林内の降雨や樹幹流によってゆっくりと地上に移動する。
  4. 地上に降下した放射性物質は、大半が地表部にとどまり、地下浸透はほとんど見られない。
  5. 放射性物質は土壌粒子に付着するが、ある程度粒径の小さいものに付着しやすい。
  6. いったん地表に降下し、土壌粒子に付着した放射性物質は、土壌粒子の移動に伴って移動する。つまり、土壌の流出の傾向と放射性物質の移動の傾向が合致する。
  7. 台風、鉄砲水、土砂崩れなどで土壌の大規模な流出があった場合、これに伴って放射性物質も移動するという理解が可能。
  8. これらの動向を踏まえた、戦略的かつ長期的なモニタリングが必要。


 さらにかいつまんで言ってしまえば、放射性物質の挙動はごく大雑把には土壌の挙動に合致するということだ。
 もっと言えば、現状、放射性物質は絶えず大気中や水中を移動しているというわけではなく、基本的には地表面や水底(河川においては特に河口の汽水域)で土壌粒子に付着した状態でとどまっているものが多いということだ。
 したがって、モニタリングに当たっては、空間放射線量率(単位Sv/h)の数値の上下に一喜一憂するのではなく(ココ大事)、放射性物質がどこからどのような流出経路を経て、どこに集まって、そこからどうやって移動したのか、ある場所で減ったのならその分はどこへ行ったのか、という「物質収支」を考慮した方法でなければならない、ということ。


 ほんとはこの研究発表会では、もっと学術的な話もいろいろされていて、例えば土壌や底質のモニタリングに当たってはサンプルの粒径による補正が必要だとか、植物種による放射性物質の吸収率の差異とか、水環境中での動向をモデル化するためのさまざまな試み(パラメータ設定にまだまだ苦慮している様子だが、いずれの場合も、分配係数(平衡状態における懸濁態と溶存態の比)がキーパラメータとなりそう)とかそんな話もあったんだけど俺の理解力の限界を超えつつあるのでパス。