ヘキサメチレンテトラミン

 この夏関東近県の水道部門を混乱のるつぼに陥れた問題の化学物質は、結局水濁法の指定物質に追加されるという決着を見そうです。(関連パブコメはこちら


 まあ、それ以外の落としどころなんてないわけですが。


 ヘキサメチレンテトラミン、という舌噛みそうな名前は、分解すると「ヘキサ」+「メチレン」+「テトラ」+「アミン」ということになります。
 ヘキサは数字の6。ほら、数々のおバカキャラを世に出した、今はなきクイズ番組の題名のアレ。あと、昔のウォーゲームとかで、六角形の升目のことをヘクスって言うよね。<知らねぇか。<知らねぇよ。
 メチレンっていうのは、-CH2-っていうひとかたまりのこと。
 テトラは数字の4。海辺にあるコンクリートの消波ブロックのことテトラポットって言うよね。あれは、4つの方向に出っ張った形をしているから。
 アミンは窒素。
 つまり、ヘキサメチレンテトラミンっていうのは、6つのメチレンと4つの窒素が組み合わさった化合物なわけです。


 ちなみに、こんな舌噛みそうな名前であっても、正式名称(IUPACの命名法に基づく正しい化合物の呼び方)ではないらしく、あくまで「通称:ヘキサメチレンテトラミン」です。めんどくさっ。
 現場ではHMTとかヘキサミンとか呼ぶのが一般的です。


 で、このヘキサメチレンテトラミン自体は化学的に比較的安定な物質で、それほど毒性の強い物質ではありません。
 が、(ざっくりとイメージで話すと)立体的な構造をしているヘキサメチレンテトラミンの分子が、何かの拍子にばらばらとほどけると、簡単に「ホルムアルデヒド」を生成します。
 この「何かの拍子」ってのが、具体的には、塩素との反応だったりするわけで。
 したがって今回の騒ぎでは、浄水場で処理する前の原水からはホルムアルデヒドが検出されたのに、処理後の上水からホルムアルデヒドが検出されてしまうという、ちょっとしたミステリーが生じたわけですね。


 で、これだけ大騒ぎになったので、何か手を打たないわけにはいかなくなった環境省ですが、そもそもホルムアルデヒド自体が、水濁法の有害物質ではない、という事情があります。
 したがって、ヘキサメチレンテトラミンをいきなり有害物質に指定するわけにもいかず、結局、ホルムアルデヒドと同等の「指定物質」に追加することでお茶を濁すことになったわけです。
 あ、指定物質っていうのは、事故時の措置の対象になる(指定物質の貯蔵施設などを持つ事業者が、事故により指定物質を公共用水域に流出させたときは、拡大防止のため必要な措置をとるとともに、都道府県知事(政令市長)に報告しなければならない)だけで、漏洩させたことそれ自体が法令違反になるわけではないです(措置義務違反があれば法令違反になるわけですが)。
 つまりはそんなに厳しい規制が課されたわけではなく、それでもこれが、水濁法でできるめいっぱいの規制であるわけです。
 ……今回の騒動に照らし合わせて、ヘキサメチレンテトラミンの指定物質追加が果たして同種の事故の防止策として有効か、と考えると、はっきり言って、ほとんど効き目はないと思います。(他方、廃棄物処理法の方で表示義務を課すとのことで、そちらの方が実効性はありそう)


 なんか化学の知識ひとつ増えるたびに法律の知識ひとつ忘れていってる気がするのは、俺の気のせいだろうか。