債権管理のシステム化

私のお師匠さんの一人が「債権管理条例は好きじゃない」というお話をしてくれたことがあります。理由はいくつかありますが、本来、債権管理のルールは地方自治法政令・省令、自治体の規則で定まっているのだから、その通り粛々とやればよいではないか、というのがいちばん大きな理由だったと思います。

このような見解は(昔ながらの行政法を学んだ身としては)至極もっともだと思う反面、債権管理条例に象徴される自治体の債権管理のシステム化には、大変なメリットがあるということもまた、否定できないように思います。

債権管理条例の制定、債権管理マニュアルの作成、債権管理部門の組織的位置づけの整理は、自治体における債権管理をシステム化し、ある程度のところまでは、誰がやっても同じようにできる状態を作り出しました。

その結果、ITとアウトソーシングを軸としたソリューションビジネスに大きなビジネスチャンスを開き、今や多くの自治体が、電話催告や滞納額通知など、債権管理のかなりの部分を外部委託するようになってきています。

 

保険料担当課に新規配属された職員として、滞納管理の電算システムの操作研修を受講させてもらいましたが、よくぞまあ標準化・システム化をしたものだと感心します。納入義務者(滞納者)ごとに交渉記録も文書発送の経過もすべてシステムで一元管理され、時効計算までシステムがやってくれます。

そして実際、システム導入と外部委託化は、少なくとも我が市では明らかに徴収率向上に結びついており、定型業務を外部化した結果、市職員は個別の納付相談や滞納処分(差押・換価・充当)に労力を集中することができるようになっています。

 

全体としては望ましい状況なのですが、しかし他方で、冒頭紹介したようなお師匠さんの違和感が、私の中にもまだ少し残っているのです。

システム化の宿命として、マニュアルがあれば誰でも仕事をできるようになり、根拠法令が読まれなくなる、という傾向は、避けられないように思います。必要な情報を過不足なく記した債権管理マニュアルを最初から手にしている今の若い職員は、(十数年前の私がやったようには)自治法施行令の条文を必死で探す、という経験をしないで済んでしまうのでしょう。

であれば、私のような古い職員の果たすべき役割は、滞納管理システムを使いこなせるようになりつつ、他方で、常に根拠法令との結びつきを見失わないようにすることなのでしょう。「強制徴収公債権って言うけどさ、強制徴収債権か一般債権かっていう(滞納処分の)問題と、公債権か私債権かっていう(時効の)問題は、一緒にしない方がいいよね」というくらいのひねくれた視点は、持ち続けていたいと思うのです。