自治体は長期債を買うべきか

金利が上がりませんね。

いや、日銀のイールドカーブ・コントロールが奏功しているということですから、批判するものではないのですが。ただ、国債が7年ものくらいまで利回りマイナスに沈んでいる現状、運用で利回りを取ろうとするなら、10年ものより長い長期債に手を出さざるをえなくなります。

 

自治体が長期債に手出しする場合に、最低限やっておかなければならない下準備が2つあると思います。

 

1つめは、基金の取り崩しについて長期的な見通しが立てられること。

長期債の運用原資は基金となります(歳入歳出現金はその性質上、年度を超えた運用には回せない)。今ある基金を5年間は取り崩す予定がなく、5年後に取り崩す、と明らかに分かっていれば、5年間債券で運用して5年後に現金化できるよう、予定を立てて運用に回せばいいので、難しくありません。しかし、今ある基金を来年取り崩すかもしれない、3年後に取り崩すかもしれない、10年経っても取り崩さないかもしれない、と、見通しが立たない状態では、何をどれだけ債券に回していいのか、予定の立てようがありません。

複数基金の一元運用で運用単位を大きくするなど、見通しを立てやすくする工夫はありますが、それでも、この先10年20年の財政ビジョン(基金の取り崩し、積立を含めた)がなければ、長期債に手を出すのは無謀だと思います。

 

2つめは、支払準備金の一時的な不足に対し、基金からの繰り替え運用以外の方法で資金の手当てができること。

支払準備金は、年度の途中で不足することがあります(国からの交付金などの特定財源や、市債への依存度が大きいと、支払いが財源収入より前に来ることが多くなり、資金不足を生じやすいようです)。このとき、基金を現金(預金)で持っていれば、基金から歳計現金に一時的に繰り替えて運用することができるので、支払準備金の不足にすぐ対応できます。

しかし、基金を長期債にしてしまうと、その分は繰り替えに回すことができないため、支払準備金の不足は別の方法で解消する必要があります。

他の自治体の事例では、一時借入金を利用する(金融機関からお金を借りる)、債券売り現先取引を利用する(債券を担保に証券会社からお金を借りる)のような対応をしているところがあります。いずれの場合も利払いが発生するので、資金調達のコストを上回って、運用収益を上げることができなければ、この方法は取れません。

 

以上2つの側面から、自治体で長期債を買うためにはそれなりの準備が必要で、この準備をするということ自体が一種の政策的決断でもあるように思います。

最近、地方公共団体金融機構あたりが、自治体に長期債を買わせようとしている空気感を感じなくもないですが、個人的には、「短期債の利回りマイナスだから長期債に手を出そう」というのは、「安全な商品が買えなくなったからもう少しリスクのある商品に手を出そう」ということに等しいので、それって自治体のスタンスとしてどうなの?という気がします。

少なくとも、空前絶後の超絶怒濤の低金利(利回りの低下=商品の高額化)の今日の情勢で、わざわざ積極的に高値づかみをしようとするのは、あまり良いことではないように思います。