指定金融機関とは

指定金融機関の前の金庫制度について調べようと思ってネット彷徨ってみましたが、まあ出てこないこと。そもそも、昭和38年の自治法改正で指定金融機関制度になる前、自治法の関係規定がどんな規定だったのかを調べるのさえ容易ではありませんでした。

古い法律の条文って、根気さえあれば、衆議院のホームページから制定法律の条文を拾って、改正履歴に沿って改め文を自力で消し込んでいけば当時の条文にたどり着けるものなのですが、自治法にはそれが通じない。なぜって、自治法が可決したのは第91回帝国議会であって、現制度の国会じゃないから。衆議院ホームページにも制定当初の自治法の姿は載っていません。

法律関係の調べ物でこんなに凹んだのは久しぶりですorz

 

しかしありがたいことに、『地方財務』2017年12月号に「国庫制度と指定金融機関の関係に関する考察」(甲斐素直・日本大学法学部教授)という、まさに俺にドンピシャ、「これを待ってました!」と叫びたくなる記事が掲載されてました。

これによれば、38年改正より前の地方自治法には公金の管理制度についての規定はなく、自治法の一般委任条項に基づいて自治法施行令で金庫制度について定めていて、これは明治会計法における委託金庫制度そのものと認められるとのこと。

委託金庫制度とは、外部機関に公金の管理を全面的に委託するものです。イメージとしては、まさに「金庫」(ルパン三世に破られそうな例のアレ)があって、そこに市の公金が入れてあって、その出納は金融機関に委託している、そんな状況を想像すればよいのでしょう。

 

となると、指定金融機関とは何者なのか。上記のような金庫制度の雰囲気と、昭和38年改正当時の議論(衆議院地方行政委員会の議事録はネットで拾えますし、この議事録の政府委員答弁にあるような内容は、自治法の逐条や財務実務提要にも断片的に収録されています)を合わせて見ると、何だか分かってきそうです。

指定金融機関制度は、従来の金庫制度と大きく変わるものではない、というのが当時の説明です。金庫に現金を入れておくのではなく、指定金融機関に自治体名義で預金として預け入れる。金庫から現金を取り出すのではなく、出納長あるいは収入役が小切手を振り出すことで支払いを行う。それ以外は、従来の金庫制度と何ら変わらない。そういう説明です。

 当時の政策的議論としては、指定金融機関は公金を預金として預かることによって、これを融資などに回し、利益を得ることができる。したがって、地方の資金が地方経済を回して発展させることを考えれば、指定金融機関にはいわゆる普通銀行ばかりでなく、相互銀行や信用金庫を積極的に選び、地域経済のために役立てられるべきではないか。そのような委員の質疑に対し、大臣が、そのような観点もあるが、まずは公金の安全の観点から選ばれるべきであって、普通銀行、相互銀行、信用金庫も含む中で、自治体が適切に選択することが重要、というような答弁をする。概ねそんな流れだったように思います。

つまり、制度の根幹としては、明治からの委託金庫制度のフレームを無批判に継承している。その上で、指定金融機関となることは当時は金融機関にとってもメリットであると考えられていた。そのような構図が見てとれます。

 

そうであるならば、指定金融機関制度についても再考の時期が到来しているということなのでしょう。長期的な低金利とマネー余りの状況が金融機関の体力を奪っており、もはや預金を多く抱えることのメリットは金融機関にはない(場合によっては、デメリットかもしれない)。預金を融資に回して利ざやで儲けるという古典的な銀行の収益モデルが痛めつけられており、銀行も適正な対価として手数料を受け取らなければ経営が成り立たない。

このような状況下で、明治時代からさして変わらぬ「親方日の丸」の姿勢で、指定金融機関制度を存続させることができるのでしょうか。

また、ほぼすべての金融機関が全銀システムに対応し、送金・決済が電子的に、即時で行われるようになった(全銀システムの稼働時間を24時間にし、いつでも振り込みができるようにしようという計画もある)今日において、自治体の決済システムが(自治法の建前では)小切手が原則、振替が例外というのも、逆だろう、と言わざるをえないのではないでしょうか。

金融機関に自治体が見捨てられる前に、自治体の会計制度をもう少し現代的な(金融機関にとって無理のない、また、金融機関にも適正な見返りがある)制度に作り直した方がよいように思えてきました。