調定は何のために

前の上司との会話ですが。

上司「他の課の奴からさー、『調定って、何のためにやるの?』って聞かれてさ」

俺「何て答えたんですか?」

上司「『自治法に書いてあるだろ、読んどけ』って答えてやったよ」

俺「…いや、圧倒的に正しいですが身も蓋もなさすぎっす」

 

調定とは、調査して決定すること、と逐条解釈などには書いてあります。

歳入に計上すべき入金が見込まれるときに、その収入の金額、歳入予算科目、納入義務者の氏名(名称)などを調査し、行政庁内部の決裁をして決定する事務処理のことを「調定」といいます。

なので、会計部門に異動となった職員が着任してすぐにやるべきことは、単語登録して「調停」より先に「調定」が出せるようにすることです。

それはさておき。

確かに、調定しなければならない、というのは自治法に書いてあるわけですが、ではなぜ調定をしなければならないのか、どうして調定しなければならない旨の規定が自治法にあるのか、簡単に説明しようとするとなかなか上手い説明が思いつきません。

 

最近私が考えた「何のために調定をするのか?」の答えは、「お金には名前が書いてないから」というものです。

例えば私が、居住する市の役所に1万円を持って行って「これ払いまーす」と言ったとします。さて、私は何を払おうとしているのでしょうか。住民税でしょうか固定資産税でしょうか、はたまた介護保険料か、あるいは公の施設の使用料かもしれません。

1万円札それ自体には、税とも保険料とも書いていないわけで、例えばこの1万円を私が「平成29年度の固定資産税1期分として払います」という意思表示をするのであれば、受け取った役所がその情報を保持するためには、現金1万円と一緒に「D-lizの平成29年度固定資産税1期分」とか書いたメモを保管する必要が出てくるわけです。

また、市役所の収税担当窓口で納入がされるとは限らず、というよりむしろ、公金収納の大半は指定金融機関・収納代理金融機関といった金融機関の窓口です。ということは、D-lizが金融機関の窓口に「平成29年度の固定資産税1期分でーす」と言って1万円を持ってきたときに、金融機関の窓口で「D-lizは平成29年度固定資産税1期分として1万円を支払わなければならないのかどうか」が判断できないと収納できません。そして言うまでもなく、市と金融機関は別法人です。

したがって、公金収納の順序としては、先に市役所が「D-lizは平成29年度固定資産税1期分として1万円を支払わなければいけません」という証拠書類を作成して、私は市役所からこの証拠書類を受け取ってから、金融機関の窓口に税金を納めに行くことになるわけです。このように、金融機関が公金を収納するための証拠書類として、「納付書」が必要となってきます。

さて、市役所はD-lizに税金を納入させるために納付書を発行する必要がありますが、納付書を送るに当たってはそもそも「お前は29年度固定資産税1期分として1万円を納付する義務があるんだぞ」とD-lizに教えてやる必要があるでしょう。これが納入の通知です。(したがって、納入通知書は普通納付書を兼ねます)

納入の通知を発する前提としては、D-lizが1万円を納付する義務があることが、市役所内部で決定されている必要があって…とここで、調定をしなければならない、という話に繋がるわけです。

 

調定は、公金を公金として(誰が何の名目で納めたものなのか分かるような形で)収納するための一連の手続きのスタート地点として必要な手続きなのです。

調定がないと納入義務者に納入の通知ができない。納入の通知がないと納付書を渡せない。納付書が渡せないと金融機関の窓口で公金を納めることができない。だから、まず調定をしなければならない。これが、調定をしなければならない理由の最も本質的な部分だと思うのです。

 

会計事務は時に複雑で、自治体職員でも、その事務を何のためにやっているのか、どうしてそのようなやり方としなければならないのか、分からなくなることは少なくありません。

会計部門に4年ほど勤務した今、思うのは、お金には名前が書いてない、ということ。したがって、歳入であれ歳出であれ、必要な情報が常にお金にくっついて流れることで、正しい会計上の整理が可能となり、それが正しい決算に結びついて、最終的には決算認定を通じて予算決算の民主的統制のルールを成立させているのだ。自治体の財務会計のルールが細かいのは、究極的には、正しい決算のためなのだ。そんな思いを強くしています。

(調定として整理するタイミング等について、各課からいろいろ相談を受けることがありますが、本質は「適切な決算を行うためには、遅くともどのタイミングまでに調定として整理されている必要があるか?」という観点なのだと思います。)