政治学徒が学ぶ地方自治法

ちょいと新規採用職員に地方自治法を教える機会があって、そのためにまず、自分自身が地方自治法を学び直す必要性にかられております。

取り急ぎ本屋に行って、初学者向けから学部生レベルまで多種多様な地方自治法の教科書を眺めているうちに、ふと向かいの書架に、大学時代の恩師の新刊本を発見しました。

政治学の教科書でした。

その本を手に取った瞬間、何やら20年前の記憶が、お茶に浸したマドレーヌ食べた誰かさんみたいにふわーっと思い出されてきまして、ああそうだ、俺って法学というより政治学を学んでいた(身についてないけど)んだったなあ、と今さらながら自分の立ち位置を再確認したわけです。

 

大学は法学部というところに通っていたのですが、まあ成績はひどいものでした。「不可山良三」とか「可不可全集」とかいう自虐ギャグで自分の成績を笑いとばしていたものです。

その中でも公法(憲法、刑法)の成績はまあ絶望的で、憲法なんて2回も再履修を受けてやっと「可」をつけてもらったという、それはそれは絶望的なレベルでした。

この頃は法学がまったく面白く感じられず、入るべき学部を間違えたかな、と思ったものです。

ところで、最低限の必修科目は法学で取らなければいけないにしても、大学を卒業するだけだったら、法学部には「法哲学」とか「法社会学」などの他の学問領域との中間的なものを扱う講義があって、これらを選択することでとりあえず単位を埋めていくことができました。

また、私の通っていた大学では政治学関係の講義が充実しており、「政治学」「現代政治分析」「政治思想史」「国際政治」などの科目を履修することができました。

そんなわけで、法学部卒のくせにまったく法学の素養のない、私のような人間が世に生み出されてしまったわけです。

 

私の法学的素養は、社会人になってから泥縄的に独習したものがすべてであって、基礎的な、体系的な法学の知識を欠いている、というコンプレックスは自身のうちに色濃くあります。

他方で、政治学のゼミに所属し、現代政治思想を(学部生レベルとしてはそれなりに)真面目に学んできた自負はあります。

最近、後輩に教える立場になってきて思うのは、自分が知らないことは教えられない、ということ。そして、そうであるならば、法学に精通しているふりをして無理に自らを大きく見せようとするのではなく、政治学を学んだ人間が、十数年の公務員人生を経た上で、地方自治制度をどのように見ているのか、を伝えるべきではないか。そう思い始めています。

 

例えば、地方自治制度のほとんどの教科書では、最初に憲法92条の「地方自治の本旨」が出てきて、地方自治の本旨とは、団体自治と住民自治のことである、なんて解説が入る。少し詳しいものになると、団体自治は自由主義的で、住民自治は民主主義的である、なんて話になってくるわけです。

これはやはり法学的説明だと思います。ここに少し政治学のスパイスをふりかけると、例えば民主主義とはそもそも何であるか。古代ギリシャのポリスにおけるデモス(民衆)による統治をデモクラティアと言ったのがデモクラシーの語源だ。民主主義が賞賛されるようになったのはごく近代のことで、歴史的には民主主義は衆愚政治に結びつくものとして否定的に捉えられる時代の方が長かった。ところで近代民主主義の特徴は、ルソーの人民主権の流れを受けて、市民革命の経験を経て獲得された「自由民主主義」であることにあり、ここでは市民の自由権参政権)を前提に、市民から選ばれた代表が決定を行う代議制民主主義となるのであって、自由主義と民主主義は切り離せるものではない…

おっと、熱が入りすぎた。

言いたいこととしては、少し政治学的説明を追加してやることで「団体自治」と「住民自治」が別個に独立する概念ではなく、相互に相補的に絡み合った不可分の概念であるというイメージが湧くのではないかな、と、そのようなことを思ったわけです。

まあ、上に書いたような説明を直接若手職員に対して行えばきっとドン引きされるはずですが、上記のようなことを頭の片隅に置いて説明をすれば、「地方自治の本旨」が「団体自治」と「住民自治」の二要素に分解されてしまうのではなく、「団体自治」と「住民自治」の双方の面が実現されて初めて地方自治(地域レベルの自由民主主義)が実現したと言えるのだ、くらいの話はできるようになる気がします。

 

 一例として「地方自治の本旨」の話を挙げましたが、他の項目についても、一般的な地方自治法の教科書に書かれていないようなことを、政治学の教科書から拾ってきて継ぎ足す。そういうことができるとすればそれが自分の強みであって、ちょっとこの先しばらく、自治法の教科書と政治学の教科書を並べて読みながら、作業を進めてみたいと思います。

例によって、気づいたことは時々このブログにメモ書きのように書き残すつもりです。